ジャン=ギアン・ケラス(vc)とアレクサンドル・タロー(p)による注目の録音。収録曲とその順番が面白い。順番通りに書くと、(1) シューベルト;アルペジョーネソナタ (2) さすらい (3) 焦燥
(4) ヴェーベルン;3つの小品 (5) シューベルト 鳥たち (6) ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ D.384 (7) 子守唄 (8) ベルク 4つの小品 (9) 夜と夢 となる。
シューベルトの作品がメインであるが、5曲収録された歌曲の編曲モノが全編に散りばめられて、その間にさらに新ウィーン学派のチェロとピアノのための作品が挿入されるといった具合。
このアルバムを通して聴いてみて、なんだか夢と現実を行きつ戻りつするようだな、と感じた。ヴェーベルンとベルクの作品はどことなく時代の虚無や孤独のようなものが感じられるし、一方でシューベルトは苦しい人生を歩みながらも、甘美なメロディーを次々紡いでいった作曲家である。なんだろう、これはまるでシューベルトその人の現実と夢のようでもあり、そして時代と国を超えて多くの人に共感される悩みと逃避かもしれない。だから、このアルバムは「夜と夢」で優しく閉じているのではないだろうか。。。などと考えてみました。
演奏は、もちろん鮮やかなもので、最近の録音では例えばペレーニとシフがたおやかな優美さと太い音色で一つの究極点のような演奏を提示したのですが、一方でこのケラス盤は、ピアノのタローとともに極めて抑制された美しさを秘め湛えたもので、こまやかなピアノのタッチにのって、おそろしいほど正確な弓の統御によって生まれるモザイク画のような緻密さを感じます。中でもアルペジョーネソナタの終楽章がもっとも見事。名演。