第18回東京国際映画祭にも出展されていた、ロヴァンソン・サヴァリ監督による長編映画『Bye Bye Blackbird』のサウンドトラック。19世紀のロンドン、巡業サーカス団を舞台に繰り広げられる物語の情景を、まさしくその音のみによって描き出していく、幻想的でシネマティックな素晴らしい作品。
眼前をうっすらとした霧で覆い隠すように、美しく煙ったストリングスが空間を満たしていく。聴こえる限りにおいて、ギターやベースといった基本的な器楽は用いられていない。アナログな質感のシンセサイザーが背後を夢中のヴェールで包み込み、オーボエやピアノ、テルミン、シンギング・ソーが交互に主旋律を担っていく。微小なサンプリングやエレクトロニカがチャイミーに舞い散るその幻想のサウンド・コラージュは、時として余りにも悲愴に、あるいは冷たく暗い昂揚を孕んで鳴り響き、そして多くにおいて白昼夢のようなノスタルジックな昂揚感で聴き手を包みこむ。
夢と現(うつつ)の境界(あわい)で揺れ動く、仄かな光を孕んだ美しい混濁のインストゥルメンタル・ミュージック。フレデリック・ショパンのピアノソナタ第2番を編曲したTr.10"the Last Of the Blackbird"、夢からの覚醒の中途のような、あるいは二度と戻れぬ世界へと踏み込んでいくような、幻想的な歪みに侵されたステージで謳われる女性ヴォーカルが素晴らしい終曲"Simply Because"など、Deserter's期の空気をさらに濃縮したような、素晴らしい非現実世界が繰り広げられています。