ジョン・コルトレーンと言うジャズプレーヤーには二面性があった。ある時にはバラードを優しくプレイし、ある時にはアナーキーなジャズを荒々しくブローした。50年代中頃から典型的なハードバップをプレイすることから彼のキャリアは始まり、50年代後半には独自のプレースタイルを確立した。だが、それに満足することなく60年代にはフリージャズに傾倒していった。
本盤は昇り龍のようなコルトレーンの滔々なテナーの鳴りが楽しめる50年代後半のアトランティック時代の作品。彼のオリジナル作品で固めたモダンジャズの名盤「ジャイアントステップス」に続くセッションから編集されたアルバムである。バックを務めるのはレギュラーメンバーとしてコルトレーンとこの先長く付き合うことになるドラマーのエルヴィン・ジョーンズとピアニストのマッコイ・タイナー。ベースにはスポット参加のスティーヴ・デイビスとなっている。プレスティージの頃の録音と比べるとバックの音とトレーンの一体感が段違いに感じる。テナーの音色にもインパルス時代に繋がる憂いの色が出始めている。
コルトレーンがハードバップを越えて、フリージャズに突き進むまでの過度期的作品ではあるが、スタンダーズを中心にプレイしているので聴き心地がすこぶる良い。この頃のコルトレーンにしては珍しい比較的オーソドックスなジャズだ。この頃の特徴であるシーツ・オブ・サウンドも所々で披露しつつも、既存のハードバップの範囲内でパワフルなプレーに徹する。本作唯一のソプラノサックス曲"Central Park West"はセッションではあの"My Favorite Things"に続いて録音されている。ジャズファンの方々にも聴き所の多い作品でもある。現時点での最高の音質を誇るリマスタリングが施された紙ジャケ盤である。