「めくるめく」「酔いしれる」こんなことばのピッタリなアトム・エゴヤンの映画。
巧みなストーリーテリング、華麗で技巧的な演出、映像美が特徴だと思います。
R-18指定の本作ですが、いつも「愛のかたち」を美しく描くエゴヤン。官能シーンはとても綺麗で、露骨な感じはまったくありません。
…でも、'50年代ショービジネス界の、スキャンダラスな空気がなまめかしくて、サロッシー撮影の、少しぼぉ〜っとした美しい「映像そのもの」がなんとも官能的なのです、この映画。
ミステリとして観ると、途中で先が読めるかもしれないし、もしかしたらエンディングがスッキリしないと、気になる方もいるかも…。(他の版に、そんなご意見がありました。)
ぜひ、人間ドラマとしてご覧になってみてください。
「時」「場所」「語るひと(視点)」を自在に交錯させた、重層的な語り口のおもしろさ。
繊細で深みのある「人の心」の描き方。
ボードビリアン・デュオ、ヴィンス&ラニーの、スターとしての「表」の顔のうらにある、彼らの「苦悩と秘密」を、ベールを一枚一枚剥ぐように明らかにしてゆくエゴヤンの『演出の手際』と、ケヴィン・ベーコン&コリン・ファースの演技が秀逸です。
インタビューで監督は「大好きな'50年代と'70年代を上手く表現できた。俗っぽいところをうんと楽しんでほしい。」とおっしゃってました。ゴージャスなショービズ界を舞台に、音楽、美術、衣装とどれも逸品、思いっきり華やかなエゴヤン・ワールドを堪能してください!
しかし…それにしてもやっぱり(笑)…
大きなザリガニといっしょに氷詰めにされる「美しい全裸死体」や、「不思議の国のアリス」の幻想的に美しいコスプレ・レスビアンシーンには、エゴヤン監督の「いけない」一面をかいま見る思いがしました(笑)。(女優さんが皆とても綺麗で、同性でも観ていて気持ちいいですけど…)
ベーコン&ファースは、本物のデュオのように息もピッタリ、素晴らしい演技です。
が…まったく個人的な好みの問題なのですが、私はどうもケヴィン・ベーコンが苦手。彼が超ノリノリでセクシーに演じるので、(ヌードもあるし)ちょっと疲れました…(苦笑)。