「カーネーション」は全体としてとてもシンプルな構成のミディアムテンポの楽曲です。歌詞にしてもメロディにしても一度聴くだけで馴染めるキャッチーさも備えています。ただ多くのリスナーに対してポップだという印象は与えないんじゃないかと。媚びたように抑揚の付いたサビ部分が流行る昨今のミュージックシーンにはどうもついていき辛くなった自分としては今作はストレートに心に響く楽曲でした。やりたい音楽の方向性や歌詞の世界観が4thアルバム「VINNYBEACH」からしっかりと受け継がれているので、その作品が好きだった方には文句なしに受け入れてもらえそうです。特にアレンジャーの三代堅さんによる、味わい深く繊細なロックサウンドは大人のリスナーの心をわしづかみにすると思います。落ち着いて何度も聴ける良作ですよ。
2曲目は1stアルバム収録曲の同タイトル曲をロングバージョンにアレンジされたもの。美しいメロディに乗せて、静かに優しく綴られた清春さんの歌声がマッチしたバラード曲です。サビ部分のビブラートがかった高音の歌声には往年のファンならずともノックアウトされそう。
3曲目は通常盤のみの収録曲。こちらはsads時代の「楽園」を彷彿とさせるメロディがとても綺麗な隠れた名曲です。自分としてはこのCDの中で一番好きな曲で、これを聴けただけでも十分価値を感じることができました。サウンド的には「VINNYBEACH」収録の「湖」の世界観が引き継がれたような感じです。
3曲それぞれに独特な持ち味がありますが、一貫してファンに向けられた歌詞のメッセージは健在で、きっと今後もこの思いをベースにした作品を作っていってくれるのかなと思うと嬉しくなります。バンド時代の近寄りがたく尖った孤高の存在感の彼も凄くかっこよかったけど、こうしてファンに根ざした気持ちを露にしてくれるのも喜ばしいと思えるのは、時間が経ったからこそお互いが感じることができるものなんでしょうね。