1888年に小金井良精に同行して千島アイヌの人種について研究したヒッチコックの報告書である。訳者は考古学者の北構保男。本書の意義は、ショイベ、デーニッツ、シュレンクなど、今日では言及されることが少ない海外のアイヌ研究者もふくめての研究成果をふまえた現地レポートであることだ。ヒッチコックはチェンバレンやバチェラーをはじめとするアイヌ研究を広く読んでいたのは疑いない。
第1部は千島列島のアイヌの住居について、第2部はアイヌ文化全般について記述する。第2部はバチェラーやマンローの著書の内容と重なり、研究が進むにつれて価値を失った部分かもしれない。訳者の注は後世の視点から見たヒッチコックへの評価の歴史にもなっていて、それだけ読んでも参考になる。ヒッチコックが北海道で採集した現物資料の目録は、詳細かつ具体的なのに感動した。
統計表、図版（写真・木版）が豊富に掲載されていて、その中には資料目録に付けられていた番号と照合できる図もある。学術書とはこうあるべき、という模範だ。
なお、ヒッチコックは「アイヌ」ではなく「アイノ」と表記すべきと考えていたので、本書はすべて「アイノ」に統一されている。
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