トロイア戦争の功労者オデュッセイアーが戦後に経験した苦悩と冒険を、ギリシア神話の神々を絡めながら語る叙事詩。この紀元前7世紀以前に成立が遡る詩篇は、創作者は一応ホメーロスということになっているが、実際は吟遊詩人たちが詠い継いだ物語を編纂したのが彼であり、どこからどこまでが彼の創作ということにしたら良いのかも判然としない「作品」である。
実在の地名と歴史と、神話の神々や怪物が混然と入り混じる物語世界は、そのまま当時のギリシア人から見た「世界」だったのだと思うが、文字による「作者」の「自己表現」としての「近代小説」に慣れ親しんだ我々には、神話伝承と創作物語の狭間に広がるこの不思議な物語空間の在り方は、やはり何とも興味深い。そして、文字による物語記述が国家権力の正当化のための手段だった中国文化圏とは対照的な、この何とも混沌とした雑多な物語世界の立ち上がり方は、やはり古代地中海の民衆世界の賜物のような気がするのだ。また、上巻解説によるとこの物語はユーゴやキルギスタン(契丹!)の伝承と共通点が多いようで、古代ユーラシア諸民族の移動と交流にも思いを馳せずにはいられなかった。
なお、この訳は30年前の日本語訳で、人によって若干の読みにくさというのを感じるかもしれないが、僕は気にはならなかった。岩波文庫には、新訳・旧訳の二種類があるが、コスト・パフォーマンスを考えると、ただ話を読みたい人であれば、仮名遣いも新仮名遣いだし、こっちの旧訳の方が安くて良いかも。
この上巻では、後世の付け加えとされる冒頭4章(帰らぬ主人公を待つ息子と母の物語)、及び主人公が帰国の途中に立ち寄った国で語る、トロイア戦後から帰国に到るまでの冒険譚の回想を収める。以外に冒険の箇所の比率は少な目なんですよね。
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オデュッセイアー〈上〉 (1971年) (岩波文庫) 文庫 – 1971/3/16
登録情報
- ASIN : B000J94VYI
- 発売日 : 1971/3/16
- 言語 : 英語
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,416,869位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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