著者は明治35年生まれの仏文学者にして評論家。昭和51年に本書を刊行したときは齢70を超えていました。本書は50年以上文学に携わってきた著者による多くの文学者への「回想」をまとめたものです。「文学巷談」と「Causeries」(雑談の意)の二部構成。
回想される文学者は多彩。はじめに、宇野浩二については「賞められながら消えて行ってしまう心細い新進作家の多い中に、悪口いわれながら文壇の中心にのし上って行った」とそのずぶとさを称賛。今の学校のような「ほめて伸ばす」ではダメなのですねw
次は広津和郎&葛西善蔵。広津については「純粋」な男であり、自分のような「翻訳家を蔑視しなかった」とけっこう好意的です。葛西については、作品はともかく人物としての支離滅裂ぶりに辟易していたようです。葛西死後の遺族たちのその後が悲しいです。
他にも太宰治、伊藤整、梶井基次郎、横光利一らについて述べられていますが、梶井の「冬の日」や横光の「旅愁」についての、世間話のていで語られたさりげない考察にハッとさせられるところが多々ありました。
また、徳川無声なる当時のマルチタレントが面白い。紹介されたトークや随筆がまあ軽妙にして刺激的。著者が生前最後に出会った場面など映画のラストシーンを思わせます。この人が書いたというユーモア小説が読みたくなりました。
後半の「Causeries」では自身の来し方も回想。海軍で働いていた著者は自分にも「大東亜戦争」に「負けたこと」への責任があると述懐していますが、あくまでも負けたことへの責任であって協力したことへのそれではないというのが良いですね。著者が「新しい歴史教科書をつくる会」賛同者あることも、さもありなんと思われます。
また著者は久々に日本の仏文学会に出席し「若い研究家たち」が新しい「文学研究法」を続々と発表するのを聞いて、
「私はフランス文学研究の町医者をもって自ら任じ、その代り、患者に親しまれ、頼りにされる医者になることをた念心がけてきたが、こんな学会に出席してみると、新しい病原や、新しい治療法の発見を教えられて狼狽する町医者のような感慨を覚える」
と語っています。これは正直な感想であるとともに、老学究としての密かな矜持ともとりたいですね。
志賀直哉が結構な優勢思想の持ち主だったことなど、意外なエピソードがてんこ盛り。週刊誌に連載されただけあって、文章は平明で、何かを硬く論じるところもありません。「文学や文学者の話をするのを何よりの楽しみにしている」著者による「気楽なおしゃべり」と言えます。
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