少女を車で轢き殺してしまい、その罪科で懲役人となった過去を持つ青年の物語である。
かれの出獄後の人生が淡々と語られてゆくのだが、その生活模様が、父親、継母、叔父夫婦、
継母の連れ子の少女らとの人間関係を中心に進行する。
しかし、その娑婆での生活は、獄中生活以上に地獄のような暗澹としたものであった。
主人公の青年は真面目な性格で、心のどこかで「ほんとうの自由」を求め続けている。
しかし、現実はつねに自分に無理難題（＝不条理）を仕掛けてくる。
いったい、幸福や救いなどというものは、この世のどこにあるのだろうか？
そのような状況の中で、悶々と静かに受動的に生きている青年だが、
ある心の変化が徐々に現れるような事態が生まれてくる。
現実の不条理を前にして、人はどのように救われてゆくのだろうか？
それとも、救われることなどありえないのが人生なのだろうか？
椎名麟三独特のどろどろとした汚れた人間描写が、行き場のない人生を
読者へ突きつけてくる。 そこには、勧善懲悪やヒューマニズムもない。
しかし、その追いつめられたぎりぎりの人生において、絶望にも等しい状況の中で、
この作者が発した強靭な人生肯定のメッセージは、強い説得力をもって、
読者に訴えてくるであろう。
この小説の読了後は、他のどのような文学も生ぬるく、青臭く感じてしまう。
文学の世界に表面的な美しさやロマンティックな描写を求める諸氏には、あえて
お勧めできない作品であるともいえるが、この現代という過酷な世界に生きる者たちが
この小説に触れることは、実に大きな意味があるように思われてならないのだ。
私自身はこれ以上多くのことを、もはやここで語ることはできない。
それは、読了された読者の私的な体験としてのみ貴重な価値をもつべきことなのだから。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
