ハメット、チャンドラーの系譜を継ぐ正統派ハードボイルドの巨匠の、長編通算16作目、アーチャー・シリーズとしては10作目になる。ただしシリーズ8作目あたりからは、肉体的、あるいは社会派的な意味の「ハード」さは薄れて、より内省的になってきていることは、この手のミステリ・ファンならば当然ご存知のこと。
ラスト・シーンでアーチャーが犯人と一緒に歩きだす時に犯人に対して思うことは、次作『さむけ』の最後の1文と同じだ。しかし本作では日没の赤い光の中にシルエットが浮かび上がる女乞食との対比により、より哀しみを痛切に感じさせてくれる。情景が絵として目に浮かぶこのシーンが素晴らしい。
ところで、早川ポケミスの表紙にはたいてい抽象的イラストが使われているが、本作のは、「雲のようにもやもやしたマッス」「そのなかにいくらか明るい部分があり」という作中の絵を思わせるものになっている。
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縞模様の霊柩車 (1964年) (世界ミステリシリーズ) 新書
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登録情報
- ASIN : B000JAH8E2
- 言語 : 英語
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- - 61,774位新書
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カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2016年11月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ロス・マクドナルド円熟期の傑作といわれるのが「さむけ」「ウィチャリー家の女」、そして本書「縞模様の霊柩車」である。
私立探偵リュウ・アーチャーは、退役軍人であるブラックウェル大佐から娘の交際相手の素性を調べて欲しいと依頼されるところから物語がはじまる。
いつもながらのロス・マク十八番の設定ではあるが、真犯人が判明する後半のどんでん返しの連続はハード・ボイルドの枠を超え、ミステリー作品とも警察小説とも言える色が濃いのが特徴である。また、アーチャーは冷静な目で社会を見つめる観察者であることに変りは無いが、本作でのアーチャーはシニカルに社会を、家族の病を観察するだけでなく、己の人間性をも露わにしている点も興味深い。
結末だけを見ると、前作である「ウィチャリー家の女」に類似しているような気もするが、ミステリーとしてのプロットは本作のほうがより練られており、読み応えもある優れた作品に仕上がっている。個人的には「さむけ」に優るとも劣らない傑作であると思う。
2016年11月現在、本書は絶版となっているため中古でしか手に入らないのであるが、ロス・マクファンであれば「さむけ」の次に読んでいただきたい作品である。
私立探偵リュウ・アーチャーは、退役軍人であるブラックウェル大佐から娘の交際相手の素性を調べて欲しいと依頼されるところから物語がはじまる。
いつもながらのロス・マク十八番の設定ではあるが、真犯人が判明する後半のどんでん返しの連続はハード・ボイルドの枠を超え、ミステリー作品とも警察小説とも言える色が濃いのが特徴である。また、アーチャーは冷静な目で社会を見つめる観察者であることに変りは無いが、本作でのアーチャーはシニカルに社会を、家族の病を観察するだけでなく、己の人間性をも露わにしている点も興味深い。
結末だけを見ると、前作である「ウィチャリー家の女」に類似しているような気もするが、ミステリーとしてのプロットは本作のほうがより練られており、読み応えもある優れた作品に仕上がっている。個人的には「さむけ」に優るとも劣らない傑作であると思う。
2016年11月現在、本書は絶版となっているため中古でしか手に入らないのであるが、ロス・マクファンであれば「さむけ」の次に読んでいただきたい作品である。
2007年10月15日に日本でレビュー済み
「さむけ」、「ウィチャリー家の女」と並ぶ作者の代表作。この三作は通常のハードボイルドの域を越え、高い文学性を誇ると共に、本格ミステリの味も加えるという、まさに円熟期の作品である。
突然大金持ちになった若い女性の失踪事件の捜査をアーチャーが依頼されるという、一見ハードボイルドそのものの設定。アーチャーが事件の真相に辿り付く過程で、アメリカ家庭の悲劇・病巣が浮かび上がって来るというパターンは円熟期〜後期の作品に共通のものだが、本作は(本格ミステリ的に)プロットが良く練られているので、マンネリ性は感じられない。アーチャーが車中で見かけた「縞模様の霊柩車」が本事件の悲劇性・狂信性を暗示しているというのが題名の由来である。従来からアーチャーは事件の「観察者」だと作者自身が強調しているが、本作ではそれが更に徹底されている。時には「哲学者」だとさえ呼ばれる。アメリカ社会の病巣に対する作者の諦観だとも言えるが、アーチャーと作者自身との区別が次第に曖昧になって来ている印象を受ける。
アメリカ社会の奈辺の病巣に対する作者の諦観にも似た「観察」と、本格ミステリの趣向が同時に味わえる円熟期の傑作。
突然大金持ちになった若い女性の失踪事件の捜査をアーチャーが依頼されるという、一見ハードボイルドそのものの設定。アーチャーが事件の真相に辿り付く過程で、アメリカ家庭の悲劇・病巣が浮かび上がって来るというパターンは円熟期〜後期の作品に共通のものだが、本作は(本格ミステリ的に)プロットが良く練られているので、マンネリ性は感じられない。アーチャーが車中で見かけた「縞模様の霊柩車」が本事件の悲劇性・狂信性を暗示しているというのが題名の由来である。従来からアーチャーは事件の「観察者」だと作者自身が強調しているが、本作ではそれが更に徹底されている。時には「哲学者」だとさえ呼ばれる。アメリカ社会の病巣に対する作者の諦観だとも言えるが、アーチャーと作者自身との区別が次第に曖昧になって来ている印象を受ける。
アメリカ社会の奈辺の病巣に対する作者の諦観にも似た「観察」と、本格ミステリの趣向が同時に味わえる円熟期の傑作。
2015年2月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
私立探偵リュウ・アーチャーは、退役軍人から娘の交際相手の素性を調べて欲しいと依頼を受ける。娘は伯母から多額の遺産を相続することになっており、彼女の相手の男は売れない画家だった。男は財産狙いで娘に近づいたのではないかと疑われたが、アーチャーが調査に乗り出した直後、男は娘と一緒に失踪してしまう…。
原著は1962年発表の “The Zebra-Striped Hearse” で、アーチャー・シリーズ11作目。代表作『ウィチャリー家の女』(1961)、『さむけ』(1964)のあいだの作品だけあって、社会派要素の濃い重厚なミステリに仕上がっています。結末までの展開はシリーズおなじみのドンデン返しの連続。いつもながら少しやりすぎじゃないないのかとも思うけれど、著者の持ち味でもあるので楽しい。
作中では、アメリカの家族のあり方に鋭く切り込まれています。 “母性” 神話の欺瞞性があらわになり、子を慈しむことが母親にとって当然の性質であるという幻想が捏造されたものであることが痛烈に暴かれます。本作に登場する母親たちの姿は、その幻想を共有できなかった女の末路です。
もちろん、それは対岸の火事ではありません。核家族化と女性の社会進出が進み、郊外型の生活により「ご近所」というコミュニティが機能しなくなりつつある、現代日本においても当てはまる病。それゆえ本書のテーマは依然として古びていない価値を持っているのでしょう。
原著は1962年発表の “The Zebra-Striped Hearse” で、アーチャー・シリーズ11作目。代表作『ウィチャリー家の女』(1961)、『さむけ』(1964)のあいだの作品だけあって、社会派要素の濃い重厚なミステリに仕上がっています。結末までの展開はシリーズおなじみのドンデン返しの連続。いつもながら少しやりすぎじゃないないのかとも思うけれど、著者の持ち味でもあるので楽しい。
作中では、アメリカの家族のあり方に鋭く切り込まれています。 “母性” 神話の欺瞞性があらわになり、子を慈しむことが母親にとって当然の性質であるという幻想が捏造されたものであることが痛烈に暴かれます。本作に登場する母親たちの姿は、その幻想を共有できなかった女の末路です。
もちろん、それは対岸の火事ではありません。核家族化と女性の社会進出が進み、郊外型の生活により「ご近所」というコミュニティが機能しなくなりつつある、現代日本においても当てはまる病。それゆえ本書のテーマは依然として古びていない価値を持っているのでしょう。
2016年9月10日に日本でレビュー済み
登場人物は心に傷や影を持つ者ばかりであることが主人公の探偵アーチャーとの会話で明らかになっていく。中盤まではそのような会話劇がゆっくりと進む。手がかりを根気よく一つ一つたどっていく中で2つの殺人事件(1つは過去のもの)や失踪事件等が明らかになっていく。終盤からはそれらが一気につながり真相へと急展開していく。特に第26、27章は会話する両者の揺れ動く内面が見えて見事なサスペンスとなっている。
全体的にアメリカ社会の病みが描かれているが、その中で人間として理想とも言える清らかな人物像が何人か現れる。それは希望の光のようでもあり作者のひそかな祈りを表わしているのかもしれない。
「ウィチャリー家の女」や「さむけ」と並ぶ名作と思う。
全体的にアメリカ社会の病みが描かれているが、その中で人間として理想とも言える清らかな人物像が何人か現れる。それは希望の光のようでもあり作者のひそかな祈りを表わしているのかもしれない。
「ウィチャリー家の女」や「さむけ」と並ぶ名作と思う。
2003年6月10日に日本でレビュー済み
知名度では「さむけ」「ウィチャリー家の女」に劣り、原題を直訳したタイトルもいまいちですが、プロットに無理のある前掲の二作よりも完成度は高いと思います。
ロス・マクドナルドの作品中の人物はみな、物語が始まる前からの過去の業を背負って生きています。この作品でも彼が一貫して追い続けた「崩壊するアメリカの家族」が抑えたトーンで描かれています。やや偶然が重なりすぎている印象もありますが、ミステリーとしての骨格も緻密で読み応えは充分です。
解説は小鷹信光氏による秀逸なロス・マクドナルド論。これだけでも一読の価値があります。
ロス・マクドナルドの作品中の人物はみな、物語が始まる前からの過去の業を背負って生きています。この作品でも彼が一貫して追い続けた「崩壊するアメリカの家族」が抑えたトーンで描かれています。やや偶然が重なりすぎている印象もありますが、ミステリーとしての骨格も緻密で読み応えは充分です。
解説は小鷹信光氏による秀逸なロス・マクドナルド論。これだけでも一読の価値があります。