"此処で生徒を相手に笑ったり怒ったり不愉快に思ったりしたことを清三は思い出した。東京に行く友達を羨み、人知れぬ失恋の苦しみに悶えた自分が、まるで他人でもあるかのように分明(はっきり)と見える。"1909年発刊の本書は、日露戦争の勝利に沸く中で病没した【実在の青年の日記】を元に描いた自然主義文学の代表作品。
個人的には、主宰する読書会で著名の同じく代表作品の『蒲団』を課題図書としている事から本書を手にとったのですが。率直に言って『蒲団』『少女病』のイメージから、勝手に【ちょっと危ない人】と思いこんでしまっていたのですが。ごめんなさい。好き嫌いがわかれる作品かもしれませんが、個人的には素晴らしく良い作品だと感じました。
その理由の一つとしては、本書では立身出世を望むも悶々とした日々を過ごす、日記の書き手である田舎教師の語りを中心にして、まるでカメラが切り替わるような描写で【群馬から埼玉北部の当時の風俗や風景が鮮やかに生き生きと描写されている】わけですが。これが何とも明治期の一つの紀行文を読んでいるようで、何とも郷愁を呼び覚まされました。
また、もう一つとしては、物語としては淡々と展開し(ここが評価の分かれ所かもしれません)【寂しく主人公は病没して終わる】のですが。この部分が歴史の主な語り手である勝者の物語に普段から接し、かつ【自分こそ特別な存在だ!】と無闇にいつまでも憧れる年をとっくに過ぎさっている実存主義的な私にとっては何ともリアルで。日記と著書の語りという【現実とフィクションが入り乱れる】本書。何とも言えない余韻を残してくれました。
自然主義文学の代表作品として、また群馬や埼玉に縁のある人、また明治期の【夢破れる青年物語】に共感したい人にもオススメ。
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田舎教師 (1952年) (新潮文庫〈第396〉) 文庫
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登録情報
- ASIN : B000JBCMLA
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