『インファナル・アフェア』(無間道/Infernal Affairs)('02)
出演∶トニー・レオン、アンディ・ラウ、 アンソニー・ウォン、エリック・ツァン、ケリー・チャン、サミー・チェン、ショーン・ユー、エディソン・チャン、チャップマン・トウ、ラム・カートン、エルヴァ・シャオ、ン・ティンイップ、ワン・チーキョン
監督∶アンドリュー・ラウ
日本人が香港映画に親しむようになったのは、'70年代前半からだろう。あのブルース·リーの『燃えよドラゴン』(←これはアメリカ映画だが)の大ヒットを契機に、それ以前のブルース·リー主演作を始め、香港製カンフー映画が続々と公開された。(当時は"空手映画"と呼ばれていたが……) もっとも当時は、ブルース·リー作品以外は、興行的にはサッパリだったとか…。
そんな香港映画は、やがて'70年代終わり頃からジャッキー·チェン人気で再び火が点いて、『Mr.BOO!』や"キョンシーもの"などで、コメディやホラー路線にも人気を広げてゆく。そして'80年代後半、ジョン·ウー監督、チョウ·ユンファ主演の『男たちの挽歌』の大ヒット以降、"香港ノワール"と呼ばれる、過激なアクションを売りにした犯罪アクション路線がブームとなる。
その後、'90年代にはノワール傍流のチンピラ映画ブーム(『古惑仔』など)も起こるが、ジョン·ウーやチョウ·ユンファがアメリカに進出。1997年の中国への香港返還を視野に入れた中国政府への配慮·自粛で、"暴力·殺人·破壊·犯罪、何でもあり"のパワフル香港映画は勢いを失うかと思われた。
どっこい香港映画は死ななかった。21世紀に入ると、それまでの香港ノワールの欠点だった脚本の甘さから見事に脱却した快作が現れたのだ。ハリウッド映画にも引けを取らない犯罪サスペンス映画の大傑作『インファナル·アフェア』が、それだった。
[物語] 1991年、香港。香港マフィアのボス、サム·ホン(ツァン)は、まだ前科のない若い組織員から優秀な者たちを警察学校に送り込む。警察内部にスパイを根づかせるためだ。ラウ(チャン)もその一人だった。
一方、香港警察の切れ者ウォン警視(ウォン)と警察学校長は、最優秀の生徒ヤン(ユー)を極秘で面接。その才能を認められたヤンは、表向き退学·放校処分で、裏社会に身を落としたチンピラになる。警視と校長以外誰も知らないマフィアヘの潜入捜査官の誕生だった。
10年近くが過ぎ、ラウ(ラウ)は警察の組織犯罪捜査の最前線のメンバーとなり、ヤン(レオン)は裏社会で成り上がり、ボスのサムの側近の一人に昇格していた。そして、組織の大きな麻薬取引のある夜、ヤンからの極秘情報で、ウォン警視以下捜査官総出で踏み込む。取引は潰せたが、ラウが発した警告のおかげで、ボスのサムの検挙は失敗に終わる。
この事件を機に、ウォン警視は警察内部に"ネズミ"がいることを確信。サムもまた、組織内に警察の"イヌ"がいることを悟る。来たる大口取引に向けて、サムはイヌの炙り出しをラウに厳命する。ウォン警視とヤンも、ネズミの特定のために必死の捜査を開始する。
捜査のためとはいえ、組織の悪事に加担する日常から来る過度のストレスに疲れ、オモテ社会の警察官に戻りたいと熱望するヤン。周囲の警察官たちや婚約者も騙しながら、マフィアに情報を漏らし続ける毎日に嫌気が差し、善人として暮らせる日を夢に見るラウ。香港マフィアと外国組織との大掛かりな麻薬取引を前に、二人が下した決断とは……!?
この作品、レオナルド·ディカプリオとマット·デイモンの主演で、『ディパーテッド』としてハリウッド·リメイクされたことは有名だ。そちらも作品賞·監督賞(マーティン·スコセッシ)ほかのアカデミー賞を受賞したほどの傑作である。それも、ひとえにオリジナル版『インファナル·アフェア』の優れた脚本に負うところが大だろう。
これ以前の香港映画といえば、ジャッキー映画も『Mr.BOO !』も香港ノワール諸作品も、「アクションやギャグが良けりゃ、脚本のいい加減さには目をツブってよ」とでも言わんばかりの脚本の甘さが目立った。本作はそういう欠点を見事に振り払い、世界トップクラスの娯楽映画のレベルに香港映画を引き上げた傑作だ。
※第2部、第3部のレビューは、単体のDVDの方に書かせていただきます。