この中にあるような気がする。本作は数年前にリリースされた「サンクェンティン」長時間盤より多くの未発表録音物を加え、この刑務所Liveの全貌を伝えるものになっている。個人的にはレコード時代から数えて、4枚目の「サンクェンティン」だが、今回私の購入の切っ掛けになったのは3枚目のDVDである。これは貴重な60年代全盛期のキャッシュのLive姿を捉え、且つ聴衆である服役者たちの刑務所での想いがインタヴィユーで綴られている。残念ながら当時のTV放映用のフィルムなので音源はモノラルでお世辞にも良い音とは言えないが、映像は実に貴重である。
キャッシュは過去から私の中ではいつも評価が揺れ動きながら触れ続けてきた存在である。多くの優れた録音を残してきた伝説の人だが、その出来にはムラが感じられる事もあった。だが、この決定盤Liveで伝説の刑務所Liveは十分に再現されたと見るべきだろう。
C.パーキンス、カーター・ファミリー、スタンレー兄弟等の音源も含めて聞くことで「サンクエンティン」が自分の目の前で再演される。
偉大なるキャッシュの遺跡は完全な骨格を伴って発掘された。嬉しい限りである。
彼の伝記映画を見て気に入った人なら、音楽には始めて触れる場合でも本作は適応性を持っている。基本的にはキャッシュ・フリークがまず購入すべき素材であるが、キャッシュを知りたい人にもちょっと贅沢な教科書となるだろう。
90年代のモントルーのLiveで「サンクエンティン」はアンコールで歌われていたと思う。彼の長いキャリアーにおいても、それほど本作は重きを成すものなのだろう。
神様の下に召されたキャッシュの冥福を祈りつつ、異教徒の私は感動を隠せない。