デビュー以来続いた一連のライブの最後の年1983年にリリースされた洋楽中心のアルバム。ジャズのスタンダードナンバーといえる "You Are Too Beautiful"に始まり、心地よいリズムに乗って歌われる"Let it be me"等を経てバーブラストライサンドの熱唱"ナイアガラ"等、岩崎宏美にこの曲を歌いたい、この曲に挑戦したいという気持ちを起こさせる楽曲がセレクトされ、そして岩崎宏美が期待通りに、その美しい声と歌唱力によってそれらを見事に歌い上げた感動のアルバムとなっています。ナイアガラは81年のライブでも歌われていますが、声質は相当に変化しているように思います。81年ではビブラートが響いた中低音の音質(一部ではミドルボイスと表現されています)を高音まで引き上げるように歌われていますが、83年版では高音の声質(一部ではヘッドボイスと表現されています)を中低音に拡張するように歌われているというのが私の解釈です。バーブラストライサンドのオリジナルをインターネットで試聴することができますが、83年の声質はバーブラを連想させると同時に、身びいき抜きで岩崎宏美の歌唱の素晴らしさを改めて実感できます。これだけ完成度の高いアルバムですので、他のレビューアーの方も仰っていますが、全曲すべて英語バージョンも併せてリリースするという選択もあったかと思います。ただ英語の歌詞の翻訳について同じくナイアガラを例にとると、81年ライブ版の歌詞の方が原詩に忠実に直訳されいるのですが、原詩そのものの趣意が意外に分かり難く、ナイアガラというタイトル、並びに原詩の内容は、83年版の意訳の方がより平易に表現されているように思います。この辺りも踏まえて一部の曲については日本語の意訳によって原詩の趣意を日本人によりクリアに伝えようとしているのかも、と勝手に推測しました。セレクトされた夫々の楽曲が持つメロディーラインの美しさ、ピアノと編曲を担当された今は亡き羽田さんのアレンジの素晴らしさも含めて、聴く度に新しい発見がある素晴らしいアルバムに仕上がっていると思います。これらの洋楽に比べると、思秋期を除くボーナストラックに収められた楽曲は、多分に私の独断によるものですが、それなりに洒落た感じで美しいのですが、当時の岩崎宏美の実力をもってすれば余裕を持ってサラッと歌えてしまえる(ように聴こえる)レベルのものが多く、聴いた後に残る感動が希薄のように思えました。