この映画は1985年劇場公開され、日活ロマンポルノ後期の傑作と評価される作品である。私自身も映画館、DVD、衛星放送と繰り返し観てきており、その都度新たに感銘を深めてきた。今回のブルーレイ化発売で久しぶりにその映像に接することとなった。
相米慎二監督というとワンシーンワンカットの長回し撮影が特徴的だが、今回は不思議と気になることはなく映像の流れに自然に集中することができた。石井隆によるエモーショナルな脚本は女と男の出会いと別れを濃密に描いたものだが、そこから一歩引き客観的に凝視する相米演出と篠田昇撮影によるカメラの視点は秀逸である。まるで人間の性(さが)を見抜こうとしているかのように思える。
ロマンポルノとしての官能的な愛欲シーンよりも、映画の中で描かれる何気ない風景が心に残る。たとえば、村木(寺田農)の住むアパート周辺の何とも言えない佇まい。長い石段を下りたところに建つ古ぼけたアパート。階段を上がった2階の部屋の前で名美(速水典子)が村木の帰りを待っていると、近くの線路を電車が通り過ぎて光と影が交差する。この寂寥感漂う場面は忘れがたい。(照明・熊谷秀夫!)この石段はラストシーンでも効果的に使われている。
主演・速水典子、助監督・榎戸耕史によるコメンタリー(音声解説)では、今は亡き相米監督の厳しい指導のもとで当時のスタッフ・キャストが喧々諤々とより良い映画づくりを追求していたことが哀惜をこめて語られている。