各作品の感想を簡単に。
「ある告白に関する物語」
撮影はダリウシュ・クツ。
母親のエヴァ(アンナ・ポロニー)が校長として働く高校の生徒だった娘のマイカ(マヤ・バレルコスカ)は16歳の時、若い国語教師のヴォイテク(ボゼナ・ディキエル)と関係して妊娠しアニヤ(カタリナ・ピオマルスキー)を生みます。エヴァは世間体のためにアニヤを自分の娘として育てるのですが、エヴァに反感を抱くマイカはある日アニヤを誘拐することを計画します。
ここでは母親と娘との葛藤と、お互いが理解し愛し合うことの困難さが描かれます。彼女たちは愛情はあるとしても歪んでおり、孤独で、その愛は報われません。そして男たちは無力で、ただ彼女たちを傍観している事しかできません。
ラスト、アニアを諦め、列車に乗って去っていくマイカをアニアは走って追っていきます。当然追いつくことはできません。このラストがこの先の未来をどう語ろうとしているのかに関してヒントは与えられません。
「ある過去に関する物語」
撮影はアンジェイ・ジェロシェヴィチ。
宗教上の論理あるいは政治的な正義と人間の基本的な権利はどちらを優先すべきなのか?答えは人間の極く素朴な良心に拠るべきということなのか?
ワルシャワ大学で倫理学を教えるゾフィア(マリア・コシャルスカ)を、アメリカの倫理学者で彼女の著書を英訳したエリザベタ(テレサ・マシェスカ)が訪ねます。実はゾフィアは第二次世界大戦のさなか、ナチスから逃れるために洗礼を受けようとするエリザベタの後見人になることを、ある複雑な理由によって断ったのです。
ゾフィアとエリザベタは和解し、ラストでエリザベタはかつて彼女をかくまうはずだった今は仕立屋を営んでいる男(タデウシュ・ロムニキ)に会いに行きます。彼女は心からの感謝を伝えようとするのですが、男はただ服の注文を訊ねることしかしません。
このラストは意味深ですが、曖昧なままに終わり、見る側の価値観や考え方によって異なる解釈が可能かと思います。わたしは、仕立て屋は「そんなことはもう終わった事だ。自分は当たり前のことをやっただけだ。気にするな」と言いたかったのではないかと思います。あるいは全く記憶になかったかです。
なお、この『8』には『10』で死者となってもはや登場しない切手コレクターの老人が、入手した貴重な切手をゾフィアに見せにきます。
詳しい解説はマレク・ハルトフによる『キェシロフスキ映画の全貌』(水声社、2008年9月)をご覧いただければ宜しいかと思います。