『十三人の刺客』('63)
出演∶片岡千恵蔵、里見浩太郎、内田良平、丹波哲郎、丘さとみ、三島ゆり子、藤純子、河原崎長一郎、水島道太郎、加賀邦男、沢村精四郎、阿部九州男、山城新伍、原田甲子郎、春日俊二、明石潮、片岡栄二郎、北竜二、香川良介、菅貫太郎、和崎俊也、汐路章、嵐寛寿郎、西村晃、月形龍之介
監督:工藤 栄一
女:「いつ帰ってらっしゃる?」
男:「早ければひと月、遅ければ次のお盆に……」
こんなシビれる台詞を残して、死地に赴く男……グッとくるじゃありませんか……。
映画ファン歴何十年になるが、最初は洋画ばかり見ることが多く、邦画をよく見るようになった頃は、時代劇はあまり作られなくなっていた。だから、黒澤明の作品以外の時代劇映画全盛期の時代劇やチャンバラ映画は、ほとんど観ていない。この『十三人の刺客』も、タイトルのみはよく耳にしたが、今まで観ることはなかった。面白いじゃないか! 今まで観なかったことを激しく後悔……。
外人さんが喜ぶような様式美に満ちた"綺麗な"時代劇ではなく、泥臭い殺し合いの団体戦は、当時の時代劇としては珍しい部類だろう。しかし、片岡千恵蔵、嵐寛寿郎、月形龍之介といった時代劇映画の大物役者たちの風格のある立ち居振舞いや台詞回しが、作品に重厚感を与えている。さらに、腰の据わったカメラワークがいい。ローアングルに据えっぱなしで、役者さんの芝居をじっくり魅せてくれるかと思うと、活劇シーンでは躍動感と迫力溢れる画(え)を活写する。
'70年代あたりからのTV時代劇は、ずいぶん見てきたが、昔の時代劇映画に比べてなんと軽いことか(…時代劇の重鎮的な役者さんがほとんどいなくなったせい……?)。久々に"これぞ時代劇"を満喫した気分だ。
[物語] 弘化元年(1844年)、筆頭老中·土井大炊頭[オオイノカミ](丹波)の屋敷の門前で、明石藩江戸家老が切腹した。遺体が携えていた直訴状は、将軍·家慶の異母弟である明石藩主·松平斉韶[ナリツグ](菅)の暴虐ぶりを訴えていた。気の向くままに人妻を犯し、平気で人を斬殺するなど目に余る異常ぶり。だが、幕府は翌年その斉韶を老中に抜擢する旨を公表していた手前、表立って処罰できないのだった。
事態の収拾に苦慮した老中·土井は、ひそかに斉韶を抹殺するため、最も信頼する目付·島田新左衛門(片岡)に秘密暗殺部隊の結成を命じる。暗殺は幕府が関知しないところで処理され、成功·失敗を問わず、実行部隊の者たちは生還したとしても、待つものは"死"であろうと思われた。妻にも先立たれ、身軽な立場の新左衛門は、「これが最後のご奉公」と思い定める。
新左衛門が集めたのは、腹心の徒目付組頭·倉永左平太(嵐)、島田家食客で剣の達人·平山九十郎(西村)、平山が推奨する浪人·佐原平蔵(水島)らの精鋭。それに新左衛門の甥で、公職につけず目標もなく、芸者のヒモのように暮らしていた新六郎(里見)を加え、総勢12名。12人は参勤交代で明石に帰る行列を待ち構えて討つ計画を決める。明石藩では、新左衛門と旧知の斉韶側近·鬼頭半兵衛(内田)が計画を察知し、対策を練っていた。
中山道を行く行列が、尾張藩領木曽の宿場を通ることを見越した新左衛門らは、斉韶に息子夫婦を殺された恨みを持つ尾張藩士·牧野靭負[ユキエ](月形)の協力で、尾張藩領の通過を禁じさせ、通り道を制限する。行列が迂回するであろう美濃国の落合宿を襲撃場所に定めた新左衛門らは、宿場総代の助力で罠や仕掛けを張る。総代の娘·加代(藤)と恋仲の郷士·木賀小弥太(山城)も参加を熱望し、精鋭部隊の刺客は13人となった。そして決戦の日は来た……!!
剣の達人が"個人技"で、敵をバッタバッタと斬り伏せる伝統的時代劇が、様相を変えてきたのはいつ頃からだろう。『伊賀の影丸』『風のフジ丸』『サスケ』など忍者アニメや、特撮ヒーローもの『仮面の忍者 赤影』を経て、'70年代には、ラグビーのようにフィールドを走りまくりながら斬る"アスレティック殺陣"の『木枯し紋次郎』、乳母車に秘密兵器搭載の『子連れ狼』、新機軸殺人術を連発の『必殺シリーズ』と、時代劇も変化してきたようだ。
この『十三人の刺客』は、古き良き時代劇の格調を保持しつつ、新時代を先取りしたチームvs.チームの団体戦要素も取り入れた画期的時代劇映画と言えないだろうか。多くの大作映画が、カラー作品が当たり前だった時代に、白黒撮影というのも、なかなか雰囲気があっていいではありませんか。
[余談] あの藤純子が、山城新伍の恋人役で、デビュー間もない17歳の初々しい姿を見せてくれてます。(あのTVコメディ『スチャラカ社員』より前です……って、覚えてる人はほとんどいないか…) あのTBSの人気シリーズ『水戸黄門』の二代目黄門さま、西村晃が剣の達人役で、血煙舞う見事な殺陣を見せます。("血しぶき"でなく"血けむり"いや鮮やかな"血霧"である。白黒画面でザンネン!)