現在では再発専門レーベルのイメージが強い「チェリーレッド」だが、1980年代は最先端でちょっとおしゃれなイメージのインディ・レーベルであった。「Pillows & Prayer」は同社のサンプラーとして1983年にリリースされたコンピレーション(イギリスでは99ペンスの廉価で販売された)で、当時のインディ・チャートで1年以上ランクインを続けたというベストセラー・アルバム。
このアルバムはその後日本でも国内盤がリリースされたが、それが好評を博したため我が国のみで「第2集」が企画され発売もされている。今回はこの2枚(第2集は当時新星堂を通じてリリースされた日本盤のデザインを使用した紙ジャケ仕様)にレアリティーズ1枚と当時制作されたイメージ・ビデオやPVを収めたDVD1枚を追加したボックス仕様での復刻となった。
チェリーレッドに所属したアーティストで最も成功を収めたのはエヴリシング・バット・ザ・ガール(EBTG)で、ここにはユニット名義の他ベン・ワットとトレイシー・ソーンのソロ、そしてソーンが在籍したマリン・ガールズの音源がいくつも収録されている。他のアーティストの作品も概してそうだが、どれも地味で、かつ緩い。80年代特有のきらびやかさとは無縁(ただし80年代特有の突飛な冒険心は旺盛)のシンプルなサウンドが延々と続くが、これが不思議と古くささを感じさせない。後に「ネオアコ」や「ギターポップ」と呼ばれることになる音楽の原型として、当時日本で親しまれた理由も理解出来る。
チェリーレッドをはじめとする当時のネオアコ系インディ・ポップで育った耳が60年代の音楽と出逢って「ソフト・ロックブーム」は生まれたのだろう。勿論「渋谷系」も、日本でギターポップが根強い人気を誇るのも。様々な音楽の流れのルーツとして非常に興味深い内容。