『スパルタカス』(Spartacus)('60)
出演∶カーク・ダグラス、ジーン・シモンズ、ローレンス・オリヴィエ、ピーター・ユスティノフ、トニー・カーティス、チャールズ・ロートン、ジョン・ギャヴィン、ジョン・ドール、ジョン・アイアランド、ハーバート・ロム、ニナ・フォック、チャールズ・マッグロー、ウディ・ストロード
監督:スタンリー・キューブリック
映画ファンになりたての頃(中学〜大学時代)、外国映画で最も好きなジャンルは"史劇スペクタクル映画"だった。中学生の時、TV日曜洋画劇場で見た『北京の55日』がキッカケでした。CGなき時代に莫大な製作費をかけた巨大セットを惜しげもなく破壊·爆破し、人海戦術で展開される合戦シーンなどに興奮したものです。(単純で未熟な思春期少年の極み?(笑))
TVの洋画番組の他、名画座での旧作上映を探したり、大劇場でのリバイバル上映などで、数々の大作を見ました。『ベン·ハー』『十戒』『聖衣』『エル·シド』『クォ·ヴァディス』『誇りと情熱』etc.etc. その中で一番好きだったのが、解放された奴隷軍団と大ローマ帝国軍の戦いを描いた『スパルタカス』でした。(スタンリー·キューブリックのことは、TVで見た『博士の異常な愛情』『突撃』の監督として知っている程度でしたが…)
なぜ一番好きだったのか? おそらく、単に大金をかけた物量作戦の大作ではなく、細部に至るまで手抜きのない緻密な気配り(演出)が、他の大作映画を圧倒する厚みと重量感を醸し出していたからだと思う。反乱を起こしたスパルタカスが、ローマ帝国各地の奴隷たちを解放し、大軍団を作るわけだが、スパルタカスが野営地を視察するシーンで、さり気なく描かれる奴隷兵士たちの日々の訓練シーン。(単に何万人という数だけを頼りに、歴戦のローマ軍団と戦ってたわけではない)
解放されたのは、屈強の男だけではない。野営地で"生活"する赤ん坊、子供と母、思春期の少年少女、老人老婆カップルが、解放で得た"自由"を享受している様子のこれまたさり気ない点描が、この映画に深みを与えていると思う。戦闘シーンなどのスペクタクルは他の映画と大差はないと思うが、上記のような細部の芸の細かさ(というと語弊があるが)のようなものが、この映画をただの"超大作"で終わらせていない。
"人間の自由と尊厳"という、ド直球すぎて少々気恥ずかしいテーマを、真っ正面から描ききった傑作だ。キューブリック自身は"雇われ監督"だった頃の、この時代の諸作品は気に入らないようだが、『現金に体を張れ』『突撃』『スパルタカス』などは「さすがキューブリック !」と言える極上の作品だと思う。
[物語] 紀元前1世紀。共和政ローマ末期のリビア鉱山で強制労働に就かされていたトラキア人奴隷·スパルタカス(ダグラス)は、人材を求める奴隷剣闘士養成所所長バタイアタス(ユスティノフ)に見初められ、養成所にスカウトされる。養成所では、剣闘士上がりの教官マーセラス(マッグロー)から屈辱を受けながらも訓練に耐え抜くスパルタカス。気丈な女奴隷バリニア(シモンズ)との淡い恋も芽生える。
ある日、養成所をローマの大物政治家クラッサス(オリヴィエ)と親友グラブルス(ドール)ら一行が訪れる。大金を積んで剣闘士の真剣勝負を所望する一行の前で、スパルタカスは、強豪ドラバ(ストロード)と闘うことになる。闘いに破れたスパルタカスだが、ドラバは彼にトドメを刺さず、クラッサス一行に襲いかかる。ドラバは殺され、その死体は見せしめに所内に逆さ吊りにされる。
翌日、ローマに帰ったクラッサスに買われたバリニアが、バタイアタスに連れて行かれるのを目撃したスパルタカスは逆上してマーセラスに襲いかかる。憤懣が頂点に達していた剣闘士たちは一斉蜂起して衛兵たちを殺害する。その勢いで養成所を制圧した奴隷軍団は、スパルタカスをリーダーとして周辺の荘園などの奴隷を解放して勢力を伸ばし、大軍勢として帝国内に広まる。ローマに向かう途中バタイアタスの元から逃げていたバリニアも、スパルタカスと再会を果たし、二人は結ばれるのであった。
首都ローマでは、元老院議員らがスパルタカスの乱に怯えていた。実力者クラッサスの留守をいいことに、ライヴァルのグラッカス(ロートン)は、クラッサスの盟友で首都警備隊長のグラブルスの軍勢を奴隷軍団の迎撃に向かわせ、自分の腹心のジュリアス·シーザー(ギャヴィン)を警備隊長代理の任に就ける。大軍勢に膨れ上がったスパルタカス軍はローマに迫り、その力を甘く見たグラブルス軍を急襲して壊滅させる。
クラッサスの身の回りの世話役だった奴隷のアントナイナス(カーティス)も脱走して、スパルタカスの元に参じ、その深い知識と豊かな素養で側近としてなくてはならない存在となってゆく。老若男女の大集団を国外脱出させようと画策するスパルタカス。だが、首都で激しい権力争いを繰り広げるクラッサスが、スパルタカスの動向を黙って見ているはずもなく、ついにその牙を剥く時がやってくるのだった……!!
この作品、第二次世界大戦後のハリウッドに吹き荒れた悪名高い"赤狩り"によって追放された映画人の一人の脚本家ドルトン·トランボの復帰作品だ。そのトランボの背景から、公開前から反発もあったらしいが、(ホントかウソか)映画を見たケネディ大統領が褒めたので、大ヒットしたとか……。(あれっっ、'60年の公開時はまだ"大統領候補"だった?) いずれにしろ、『ローマの休日』『黒い牡牛』『栄光への脱出』などで知られるトランボの代表作だ。
出演者はみな名演·熱演を見せているが、その最右翼はバタイアタス役のピーター·ユスティノフだろう。この作品でオスカー助演男優賞を得ている。(以後『トプカピ』でも二度目の受賞) 『クォ·ヴァディス』では、皇帝ネロを怪演し、ディズニー映画『黒ひげ大旋風』では、タイトル·ロールの海賊黒ひげ船長を演じ、『ナイル殺人事件』ほかの諸作品では、名探偵エルキュール·ポアロを演じたことでも知られてます。