のっけから大げさだが、バディ・デフランコは、間違いなくジャズ・ジャイアントの一人に数えられるプレーヤーだ。ところが、一部に熱狂的な信奉者がいるものの、「モダンジャズ・ファン」の中でデフランコの認知度は驚くほど低い。おそらく大多数のリスナーが「ジャズ」に求める気分や雰囲気、快楽の質に、クラリネットの音色が合わないからだろう。まあたしかにそうだ。
しかし、せっかくジャズという桃源郷に足を踏み入れたのに、デフランコを遠ざけるのは、一つの快楽のチャンネルをあっさりと否定するのに等しい。
デフランコはイージー・リスニング的な作品も多数発表しているが、最大の魅力は、そのインプロバイザーとしての力量にある。この "Mr. Clarinet" は、まさにクラリネット一本携えて、何の余計な演出もせず、能力の限界に挑んだ金字塔だ。
とにかくまずは1曲目の "Buddy's Blues" に耳を傾けてほしい。パーカーの "Parker's Mood" にも匹敵する名演だ。例えが陳腐だが本当だからしかたない。とめどなく湧き出る魔性のアドリブ・プレイに、ここで早くもグッタリだ。これほど優れたブルース表現には、めったにお目にかかれるもんじゃない。そして気を取り直すひまもなくアップテンポの "Ferdinando" に突入していく。
クラリネットになじめない人は、邪道ではあるが、いっぺん頭の中でサックスに置き換えて聴いてみるといい。その演奏の質に納得されるに違いない。
1枚聴き終わるころには、ジャズのアドリブに純粋に浸りきった爽快感と深い感動に包まれることを保証する。クラリネットが嫌いな人でも、これがクラリネットであることを忘れるはずだ。あるいは、ものすごくクラリネットが好きになるだろう。
サイド・プレーヤーの充実も見逃せない。特にアート・ブレイキーのプッシュは何ものにも代えがたい。5つ星では足りません。