『白熱』(White Heat)('49)
出演∶ジェームズ·キャグニー、ヴァージニア·メイヨ、エドモンド·オブライエン、マーガレット·ワイチャーリイ、スティーヴ·コクラン、ジョン·アーチャー、ウォリー·キャッセル、ミッキー·ノックス、アイアン·マクドナルド、フレッド·クラーク、ジョージ·パット·コリンズ、ポール·ギルフォイル、フレッド·コビー、フォード·レイニー、ロバート·オスターロー
監督∶ラオール·ウォルシュ
西部劇を思わせるような冒頭の列車強盗シーン。小気味のよいテンポに、一気に映画の世界に引きずり込まれる。しかし、この映画、単純な犯罪映画(ギャング映画)ではない。
頭脳明晰なプロフェッショナルの犯罪者たちと最新機器を駆使する敏腕捜査官たちの虚々実々の駆け引き。刑務所内で生き抜く男たちが見せる大ワザ小ワザの"特殊技能"…。見どころ満載である。
列車強盗→逃走→刑務所→脱獄→潜入捜査→新たなる大犯罪→広域捜査網の展開と、息もつかせぬスピーディなストーリーと二転三転の強烈なサスペンスで寸時も飽きさせない。1949年、第二次世界大戦後間もない頃の作品ではあるが、決して古さを感じさせない犯罪サスペンス映画の傑作だ。
[物語] プロの犯罪者であるコーディ·ジャレット(キャグニー)は、サブ·リーダー格のビッグ·エド(コクラン)や手下たちとともに列車を襲撃し、機関士たちを殺して輸送中の大金を強奪する。犯行ののち、コーディをイッパシの犯罪者に育てた母(ワイチャーリー)とコーディの性悪妻ヴァーナ(メイヨ)が待つアジトで息を潜める一味。
だが警察の追及は厳しく、捜査網は迫ってくる。悪知恵に長けたコーディは盗んだ金を秘匿すると、列車強盗と同時刻に他の手下にやらせていた別犯罪の犯人として自首。短い刑期の刑務所暮らしに入って、強盗殺人の大罪→死刑の道を回避する。証拠はないが、コーディこそは列車強盗の真犯人と見抜く当局は、盗まれた金の在処を暴くため、潜入捜査官ハンク·ファロン(オブライエン)を同房の受刑者として送り込む。
シャバではコーディの母が、嫁ヴァーナとビッグ·エドの密通に気づき、二人を排除しようとしていた。刑務所内では、ビッグ·エドの息のかかった受刑者が、事故に見せかけてコーディを殺そうとする。ファロンの機転で助かったコーディは復讐のため、恩人のファロンらと巧妙な脱獄を企てる。ファロンはそれを当局に知らせ、コーディを脱獄させて泳がせようと考える。
だが、脱獄計画実行前に、母の死の知らせが届き、半狂乱で暴れたコーディは拘束されてしまい、計画はパーに。当局は、彼を泳がせる作戦の準備を放棄する。しかし、脱獄を諦めないコーディは入手した拳銃を使い、ファロンら受刑者仲間を道連れに、暴力脱獄を遂げる。
脱獄して、ビッグ·エドを殺したコーディは、新しい仲間たちと新たな大犯罪計画に着手する。行動を共にするファロンは、何とか当局に犯行計画を知らせようと、コーディのスキを伺うのだが……。
主演のジェームズ·キャグニーは、エドワード·G·ロビンソンとともに、1930年代にブームとなったギャング映画というジャンルを牽引した立役者だ。ラオール·ウォルシュ監督は、サイレント映画時代から活躍し、ギャング映画、西部劇、戦争映画、フィルム·ノワールなど様々なジャンルの娯楽映画を1960年代まで撮り続けた大御所。
そんな二人が組んだこの『白熱』は、単なるギャング映画というワクには留まらない。緻密なプロットとパワフルで熱気あふれる演技·演出がコラボして、犯罪サスペンス映画の一つの頂点を極めた大傑作だと思う。異常性を秘めたコーディ役を熱演したジェームズ·キャグニーにとっても、ただのギャング映画スターでないことを証明した1本と言えよう。
[余談]『白熱』という邦題は、“White Heat”という原題の直訳なのかもしれないが、なんとなくB級ギャング映画のような安っぽさが漂っている気がしてピンとこない。今さら言っても仕方ありませんが…。
そういえば、1973年作でバート·レイノルズ主演のB級アクション映画の邦題も『白熱』でした。脱獄囚の主人公が、田舎の酒密造業者や悪徳保安官相手にド派手なカーアクションを繰り広げる話でした。あちらの原題は“White Lightning”。作中に出てくる密造酒の名前ですが、直訳するなら「白い稲妻」ってとこでしょうか?