(( 具体的に書くのを少し避けましたが、内容にふれています。注意してください。))
郊外の古い「家」をシェアして暮らす、演劇を学ぶ「彼女たち」。
原題は『LA BANDE DES QUATRE』(四人組)。英語タイトル『 Gang of Four』。
リヴェットには、バルザックの『十三人組物語』を元にした『アウト・ワン』という12時間超えの作品があり、「秘密結社」大好きというリヴェットらしい原題の『四人組』ですが、邦題の「彼女たち」という「語感」もこの映画によく合ってるとおもいます。(この「家」に住むのが常時四名。演劇学校シーンには10名以上登場し、キェシロフスキ『二人のベロニカ』のイレーヌ・ジャコブの顔も見えます。)
少女でも大人の女性でもない、彼女たちの日常生活を描いてとてもリアル。どうしたらこんなふんいきが作れるのだろう?と感心します。
郊外の「家」と、演劇学校を行き来する彼女たちの毎日、場面転換のように映し出される車窓の風景がとても印象的。
夜の街や、学校近くのパリっぽい石畳の道、「家」の庭など・・・ときおり写される屋外シーンのみずみずしさにもハッとします・・・
彼女たちの恋愛相手や家族関係、ビュル・オジェ演じる演劇学校教師コンスタンスの周辺にも、なにか「秘密」のありそうな仄めかし(「毒薬の小瓶」をこっそり持つ娘もいたりして)。セリフの端に少しずつ出てくる「謎や秘密」を追いながら見進めるのがたのしい。
映画開始早々に、セシル(ナタリー・リシャール)を「家」から立ち去らせる恋人リュカ。そして、彼女たちに近づく「謎の男」。このふたりは「正反対」の立場だけれど、どちらも彼女たちを「陰謀渦巻く??世界」に引き込む「役割」をしている・・・
「家」を出て行くセシルの代わりにやって来たのが「毒薬の小瓶」のルシア(イネス・ディ・マテイロス:オリヴェイラの『神曲』『わが幼少のポルト』など)☆
「謎の男」は、アンリ、トマ、ルシアン、三つの名を使い彼女たちに近づきます。「セシルの恋人と一緒に偽のIDを作っている」とか「セシルはテロリストだ」とか、(盗難にあい一世紀以上もの間行方不明だった)『美しき諍い女』(!)の「絵画取引」にセシルの恋人が関係して身の危険があるとか、まことしやかな話でもって三人の女の子に言い寄り、何かを探り出そうとします。さてこの男の目的はいったい・・・・・???
「謎の男」は、「毒薬の小瓶」のルシアには接触しません。この娘はどこかしら神秘性があって演技にもうまく入り込み、コンスタンスも「ダメ出し」しない・・・いろんなものを見透かすような目をしたルシアは、『パリはわれらのもの』のアンヌの「進化系」のように思えます。
この映画には「恋愛心理劇」のおもしろさもあって(これもリヴェットの映画の特徴だそうですが)、「謎の男」をめぐる彼女たちの恋愛心理を、女優さんたちそれぞれの個性を見せて素晴らしく演じているのも見どころです。「謎の男」も、いかにも切れる「回し者」という感じではなく、フランス映画っぽく?汚れて疲れた感じをチラリと見せたり・・・リアリティがあります(笑)。
演劇学校のリハーサルシーンに使われる「劇中劇」は、恋愛心理の描写に長けたマリヴォー作の『二重の不実』。
ビュル・オジェ演じる演出家コンスタンスが「ダメ出し」をくりかえすリハーサルと、彼女たちの実際の心理状態を絡めるように映画は進み、ある日・・・逮捕されてしまった恋人リュカへの想いで泣き出してしまうセシル。ナタリー・リシャール迫真の演技です(・・・が、劇中コンスタンスは「これは悲劇じゃないわ。ここは怒っているのよ」とダメ出しを・・・)。
セシルがなぜ泣いちゃったのか。客席でリハ見学中の子たちみんなで「歌って」説明するシーンや、彼女たちの「家」で繰り広げられる寸劇(← セシルの恋人リュカを巻き込んだ「事件」のダイジェストのような裁判劇。「政界のスキャンダルを暴露した人間が、濡れ衣の別件で告訴される」というお話。)も最後は「歌」で〆て。これはリヴェットのミュージカルへの想いなのでしょうか・・・手のこんだ作り。
(( ラストにふれています ))
セシルの恋人と「謎の男」が引きずってきたもの(陰謀を抱え込む世界??)が、彼女たちの日々を揺らし、やがて「驚きの展開」が・・・でも、そのあとは放りっぱなし(ミステリ、サスペンスの定石を外し)そのままラスト・・・と見せて・・・さらりと「回収」・・・なんてソフィスティケイトされた映画なの。
演劇教師コンスタンスの去り際をさりげなく演じるオジェが素敵です。若い女優さんたちのパワーに押され気味だけど、謎めいて儚く、最後のシーンはとてもいい感じ・・・
苦いハッピーエンドという劇中劇の『二重の不実』。
「これで終わりにしましょう」・・・コスチュームを着けた☆ルシアが演じる、恋人アルルカンに別れを告げ彼女を見染めた貴族の妻となるシルヴィアのセリフで、「劇中劇」も、映画『彼女たちの舞台』も〆ます。
コンスタンス不在のまま芝居のリハーサルを続ける彼女たちの間にただよう空気が後をひくラスト・カット・・・・
(( このあと「私見」ですが、内容にふれているので(ネタバレ)、未見の方は注意してください。))
リュカがセシルを通して、彼女たちの「家」に隠した、(政界スキャンダルの物的証拠の手紙の入った)小箱の「鍵」。
秩序維持のため証拠の「揉み消し」を図る刑事トマは、鍵のありかを探そうと彼女たちに言い寄り心身を弄びましたが、彼女たちの反撃に合い、結局ジョイスに撲殺されてしまいます。
なぜ、この役がジョイスだったのでしょう? ジョイスはトマの子をみごもっていたから。
たぶんこの女優さんが実際に妊娠していたから(お腹が大きかったのです)、そのようなストーリーへと膨らんだ(!)のではないかと推測しています。・・・劇中、トマとジョイスが会うシーンで、ふつうレモンは入れないカクテルに「レモンを」と注文しますし。(終盤煮詰まっってから)、トマの「どうするんだ?」のセリフのあと、トマは衝動的というかどこか切羽詰まった感じでジョイスにキスし、ジョイスは酷く乱れます。そのあと、やはりトマと肉体関係をもったクロード(← これは劇中、ぜんぜん露骨ではなく美しいと言えるのに、なんとも生々しいふんいきの「事後シーン」ではっきり示されます)とジョイスの、非常に居心地悪いシーンをふたりが素晴らしく演じてみせますが・・・終盤のこの複雑なムードは一体なんだろう?と、最初思いましたけれど、(個人的には)ジョイスの妊娠で解決しました(笑)。
コンスタンスのいない最後のリハ・シーンに、ジョイスは現れず、「ジョイスに会いに行く」というクロードと、「伝えたわ。喜んでた」というアンナのセリフがあります。・・・初めはジョイスが「服役中」なのかとだけ思いましたが、「出産準備中」でもあるのかもしれません。
【補足1】 四人組の女の子たち、国際色豊かなのもおもしろい設定です。リュカという恋人ができて先にこの家を出るセシルと、クロードはフランス人ですが、あと文中にも示したようにルシアはポルトガル人。小麦色の肌の美しいアンナは南(南米ふくむ、出身はアメリカ?)の血が混じるようですし、ジョイスはアイルランド出身。両親は故郷に帰ったという会話もありました。
【補足2】 「謎の男」トマのクロードへのお話は、もともと(バルザックの小説の登場人物で、リヴェットが『美しき諍い女』で映画化した)架空の画家フレンフォーフェルを実在のように語るのに始まり、『美しき諍い女』の盗難そして、(煩雑になるのでレビューには省いていましたが)その絵が最近現れて世界中あちこちしているという、クロードが「うっとり」してしまうお話まで、すべて作りごとなのですね(笑)。「謎の男」トマはまるで山師。。(リヴェット にとって、自分の次作予告を入れたメタ構造とも言えます。)
*** エンドクレジットの最後にこんなふうに出ます ⇨ 「全ての受刑者と 彼らを待つ人々に」 ***