♪今では演歌の範疇に取り込まれた(?)感もある“ムード歌謡”だが、もとゝの成り立ちは、当時の流行歌とは一線を画す、ジャズやラテンといったハイカラな洋楽からの影響を強く受けた、いわば“歌謡曲のニュー・スクール”とでも言うべきものだ。
♪その証拠にそのジャンルの代表的な歌い手は、フランク永井や松尾和子、青江三奈、田代美代子そしてマヒナスターズといった、元来はジャズやハワイアン等の舶来ポップスをおもに手掛けていた連中。“ムード歌謡”はじつは洗練された洒落者のための音楽だったのである―
♪その中核を担う大作曲家こそ、「有楽町で逢いましょう」('57)ほか数々のムード歌謡の傑作を生み出してきた吉田正その人だ。初ヒットの「異国の丘」('48)ではもろ軍国調だったその曲調も、鶴田浩二の「街のサンドイッチマン」('53)辺りから徐々に垢抜けてゆき、「赤と黒のブルース」('55)、「好きだった」('56)、「哀愁の街に霧が降る」('56)と都会派歌謡の秀作を次々とものにして行く。
♪この貴重なアンソロジーでは、そんな吉田正の代表的な楽曲を軸に(約半数!)、いずみたくや浜口庫之助ら次世代の作家たちの同傾向の作品をも含む、この種のナンバーを集大成―ちなみにディスク1がモノラル編('57〜'63)、2がステレオ編('64〜'70)という構成だ。
♪いかにも日本人好みの哀愁に満ちた(主としてマイナー・キイの)メロディが、都会調のクルーナー・ヴォイスやセクシーなハスキー・ヴォイスによって切々と唄われ、ゆったりとしたフォー・ビートや華やかなラテンのリズムがそれを下支えする…それはまさに大人のためのポップス。“ムード歌謡”はその先駆とも言えるのではないか―個人的には松尾和子とかマジたまんないっす!!