ジャズのアルバムの聴き方の難しさを痛感しています。一般的にベスト・アルバムというのはそのアーティストの一番良い演奏を集めたものですから、既存の全てのアルバムより価値のあるものだと思っていますが、ことジャズになるとそれがあてはまるのかどうか怪しくなっていきます。それぞれのオリジナル・アルバムの完成度の高さとその時代の空気、メンバーとの息の合い方、同じ演奏が二度とないというインプロビゼーションの緊張感、それらのつながりがベスト・アルバムにはないからです。
もっとも初めてビル・エヴァンスに接するという人には、最適の1枚でもあります。曲目は、「ワルツ・フォー・デビイ」「マイ・ロマンス」「いつか王子様が」「ブルー・イン・グリーン」「あなたと夜と音楽と」「ホワッツ・ニュー」など、彼の代表的なナンバーから選ばれています。その演奏を気にいれば、そこからオリジナル・アルバムへと入っていけますので、導入といいますか橋渡しの役割も果たしています。
1956年から70年という幅広い録音から選曲されていますので、組んだパートナーもまちまちです。当然ビル・エヴァンスの演奏も時代とともに変化していますし、緊張感も違い温度差も感じます。どの演奏にも共通しているのは、エヴァンスのリリカルなトーンが通奏低音のように流れているのを感じられるところでしょうか。
晩年というのには早い旅立ちでしたが、人生の最期を迎える頃の凄みというものはこの頃の演奏からは感じられません。彼の演奏の幅の広さはその全てを聴いて初めて理解できることでしょうから。