BBC交響楽団とロイヤルオペラの合唱団によるコリン・デイヴィスの一回目のべルリオーズ・チクルス(1972年)から30年以上を経た今回のLSOライブによる二回目のチクルスの中でも白眉と言える内容を持っています。初回のやや荒削りとも言えるダイナミックで情熱的な感情表現は後退しているが、前回の録音実績を踏まえて、全編に亘って一層読みが深くなっており、間のとり方や細かなテンポの揺らし、ニュアンスたっぷりの音色、歌手の歌わせ方いずれにおいても前回の経験を踏まえた彫りの深い解釈が明示されています。前回は気鋭のべルリオーズスペシャリストと言った雰囲気であったが、今回は堂々たる巨匠風のスケールの大きな表現となっています。 グレゴリー・クンデ(チェッリーニ)、 ローラ・クレイコム(テレーザ)の主役は勿論のこと歌手陣は皆安定しています。この作品はべルリオーズの驚異的な創造力、聴き手の意表をつく奇抜な表現や圧倒的な斬新さ、熱狂的な躍動感などべルリオーズの天才性が十全に現れた曲で興奮をさせられるオペラと言えるのです。この素晴らしい内容がコリン・デイヴィスによって見事に表現されています。『ベンヴェヌート・チェッリーニ』のリファレンスとして長らく君臨する録音と思われます。
『ベンヴェヌート・チェッリーニ』にはパリ版を用いて文献的価値の高いネルソン盤、シンフォニックなノリントン盤に加えてゲルギエフによるDVDまで現れた、デイヴィスの旧盤以外は音質に問題のある録音しかなかった一昔前に比べると隔世の感があります。今後はガーディナーやレヴァインの映像版やデュトワなどの録音を待ちたいけれど実現するでしょうか。