前作はトリオ演奏でスタンダード含みのアルバムでありましたが、作曲家、アレンジャー、トータルな意味での音楽家としての彼を高く買っていた私には(その素晴らしさを堪能しつつも)一抹の不満を禁じえませんでした。
翻って本作では、そうした彼の総合的なレベルの高さを改めて見せられたように思い、ひさびさに5つ星を出したいと思います。
CD2枚組、トータル90分、全30曲。
最短37秒の曲から、最長8分49秒まで。
一般的に言えば長尺のアルバムです。乱暴な言い方ですが、結果的にはこの長さによって評価が分かれる場合もあるかもしれません。
ライナーノーツによれば、大部分は2006年に各地をオクテットでツアーした際のライブ録音曲、その元ネタはJim Woodringとのコラボにより作られたもの。ほかにNPR(National Public Radio、米国)の番組向けで2007年5月の録音曲です。
メンバーおよび担当楽器は次のとおり(アルバムクレジットより)。
■Bill Frisell : electric and acoustic guitars, loops
■Ron Miles : cornet
■Greg Tardy : tenor saxophone, clarinet
■Jenny Scheinman : violin
■Eyvind Kang : viola
■Hank Roberts : cello
■Tony Scherr : bass
■Kenny Wollesen : drums
クレジットされたメンバーや楽器構成からある程度の予測がつくかもしれませんが、実際聴いてみると、(部分的にそういうところはありますが)「いわゆるスイングするジャズ」の作品とは呼べない内容です。ビバップやフォーク、ラテン系、現代音楽、ブルース、ロックなど、「歴史」を感じさせる様々なフォーマットに、いかにも彼らしい和声使いや音がぎっしりと詰め込まれ、しかも全体的には映画のストーリーのように仕上がっており、まさに「神秘」とでも言いたくなるような強力なアレンジ力・構成力といったものを感じます。
ただ、こうした趣向の作品にありがちな「あれもこれも」感は感じられず、彼の力量やセンスに感じ入ります。すなわち、本作のように短い曲が多くて様々な音楽的要素が入った作品の場合、ともすれば切れ切れな印象を感じてしまう場合も残念ながら少なくないのですが、本作については継ぎ目のない「一枚の絵」を感じます。
Guitaristとしての彼のプレイは相変わらずです。最後の最後に味を調える塩コショー風にも聴こえますが、しっかりと楽曲の機軸となったうえでそのように聴こえもするといった具合で、センスの塊のようなシングルトーン中心のプレイは本作でも十分に堪能できます。
ビルフリのファンの方には、まずはご一聴をお勧めします。