メトロファルスは、伊藤ヨタロウ以外のメンバーが激しく出入りし、それぞれの個性をきちんと発揮し、従って音楽性も様々な変遷を辿っているのだが、軸であるヨタロウの存在によって全てメトロファルス以外のなにものでもない音に聴こえるという、なかなか不思議なバンドである。このメトローマンス・ホテルはヨタロウの別バンドだが、メトロファルスと大体同じ文脈で、そのアコースティック版くらいのつもりで聴いて良いと思う。
ヨーロッパ風、但し日本人の曲解も含めたフィクショナルなヨーロッパ風の、哀愁と陽気さを同時に併せ持つような楽曲とアレンジ。シニカルだったり天邪鬼だったり、結構判りづらい捻りを利かせた歌詞。それをヨタロウの芝居がかった歌い回しが片端からアリにしてゆく。
サウンド的な特徴としては、低音部をベースギターではなくチューバが担っており不思議な愛嬌を生み出していること。更にヴァイオリンとアコーディオンをフィーチュアしていることか。アコースティックな割にがちゃがちゃと賑やかな印象である(良い意味)。妙な衣装と相俟って、ブックレットの写真はまさしく“旅芸人の一座”である。
ライヴ音源が多いのはやはり他界したヴァイオリニストHONZIの遺した演奏を収録しようとしたためか。ただそれには若干の功罪がある。つまり演奏の勢い、一体感といった点では良い方向に働いている。しかしヨタロウのヴォーカルはもともと音程の正確さや言葉の明瞭さよりもエキセントリックな感情表現を優先する傾向があり、ライヴゆえそれに拍車がかかっている。一概にマイナスとは言えないが、ライヴ録音だというエクスキューズなしだときつい部分もある。
特に、超名曲である筈の「薔薇より赤い心臓の歌」。オリジナル版であるホーカシャン(ヨタロウ&濱田理恵)名義のスタジオ録音に比べるとやけに間延びしており(演奏のミスもそのままだし)、楽曲のポテンシャルが全く表現されていないと感じた。他の細かなキズはともかく、この1曲があまりにも惜しい。
とはいうものの、総合的には充分に楽しめる。メンバーの死、それを乗り越えてのリリース、という感傷的な物語にひきずられてしまうのは勿体無い“音楽的”な作品だと思う。