とらやに下宿している青年(中村雅俊)に、押売りと間違えられた寅。怒り心頭で、どなりまくるが、おいちゃんからきつい一言。
「押売りと間違えられる甥っ子を持った、こっちの気持ちも察してくれよ」
そこへ、タコが登場して、さらに追い打ちをかける。
「税務署で、寅さんが押売りに間違えられたことを話したら受けちゃってさ、おかげで税金まけてもらちゃった。あはははははは」
という次第で、寅はますます逆上、という展開になる。後には、題経寺の御前様まで、「寅を押売りと間違えるのは、むしろ、正常な感覚というべき」とコメントするなど、今回の寅は、さんざんに叩かれる。外見は、どうみても、かたぎには見えない寅だから、自業自得というべきか。
とらやの下宿人、ワットくん、こと、島田良介は長崎県平戸出身である。ところが、40作目の「サラダ記念日」では、宮城県出身と紹介されている。山田洋次は、よく、基本的なことを忘れるのだ。たとえば、寅の「それを言っちゃあおしめぇよ」は何作目から使うようになったか、覚えていないとインタビューで答えている。こんなもん、覚えるもなにも、第1作目から使われている。それも、シナリオにない、渥美清のアドリブだった。おいちゃんとの喧嘩シーンで、咄嗟に出たセリフだと渥美清は語っていた。
タコが寅の押売り騒動で税金をまけてもらったってのは、冗談がきつすぎる。そんなことで、税金はまかりまへん。「税」とは「米粟を収めさせることをいう」と字統にある。つまりは、封建時代の年貢米と同じことで、それが現金になっただけ。「年貢金」とでも言ったほうが、実感が出るだろう。お上が民百姓から搾り取るもんだから、馬鹿話でまけてくれるような、甘いもんやあらへんで。マルサの眼が光っとるでぇ。
冒頭の夢シーンで印象に残ったこと。前田吟は、キザ男役が似合う。丹波哲郎原作の映画化「丹波哲郎の大霊界 死んだらどうなる」でも、キザ男を演じて、ぴったり、役にはまっていた。
気になった役者。杉山とく子。TV版「男はつらいよ」では、おばちゃん(車つね)役だった。映画版では7作に出演したが、第五作「望郷篇」で浦安の豆腐屋の女店主役を演じた以外、みな、ちょい役だった。本作「寅次郎頑張れ」では、パチンコ屋で寅の隣に座る客役だった。
映画版のおばちゃん役、三崎千恵子は着物の着付け教室を本業にするため、女優業引退の記念作にするつもりで「男はつらいよ」出演した。ところが、映画が好評でシリーズ化したため、引き続き、おばちゃん役を演じることになり、芸能生活が長くなり、「男はつらいよ」シリーズ全48作が終了した後も、90歳でなくなる前年まで現役で通し、12作の映画に出演した。人生って、ふしぎなものですねぇ~~~♪