ロバータ・フラックという人に、深い母性愛を感じる人は多いはずです。幼い頃の昼下がり、母親に歌ってもらった子守唄から感じた慈愛のようなものが、この人の歌にはあります。そしてそんな母性的な女性の、ある人への想いが滔々と綴られるのが、2曲目に収録されている「我が心のジェシ」(原題:Jesse)。もともとはジャニス・イアンの曲ですが、この人が歌うことによって、誰もが心でなぞることのできる「人間らしさ」を得ているように思います。人はなぜ歌うのか。その理由を、この歌は教えてくれます。以下訳してみました。
ジェシー、帰ってきて。
ふたりで寝てたベッドにはぽっかり穴が開いてしまったわ。
そして今は冷たくなってるの。
ジェシー、暖炉の前でふたりで寝ころんでた時のあなたの顔が今でも胸から離れないの。
階段の明かりは灯しておくわ。怖いんじゃない、あなたを待っているの。
ジェシー、帰ってきて。寂しいの。
ジェシー、家の床や壁でさえ、あなたの足音を憶えているわ。私もそう。
写真はすべて色褪せてくすんでしまったけれど、
昼食のテーブルにあなたを必ず飾ってるの。
階段の明かりは灯しておくわ。怖いんじゃない、あなたを待ってるから。
ねえジェシー、帰ってきて。寂しいの。
ジェシー、あなたがいなくなった時と同じように、
ベッドのあなたの場所はそのままよ。
若かった頃のことや気分がふさぐことは、もうきれいさっぱり忘れたの。
だからもう新しい心持よ。ね、ジェス。わたしとあなただもの。
階段の明かりはいつもどおり灯してるわ。
私は髪を整えて、何も気づかずに眠ってるから。
ジェシー、寂しいの。だから、帰ってきて。