チェットのヴォーカルアルバム第二弾。冒頭のLet's Get Lostから、聴く者を鷲掴みにする。ラス・フリーマン(p)の最初のワンフレーズからしてそうだが、続くチェットのトランペット、そしてヴォーカル。ヴォーカルアルバム第一弾「シングズ」の冒頭曲That Old Feelingに勝るとも劣らない魅力を放っている。
チェットのプレイスタイルは、メロディを元にフレーズを組み立てていくやり方であり、分散和音の鬼であるクリフォード・ブラウンのように、コード進行のそれぞれの音を分解して速いフレーズできらめくように敷き詰めていくやり方とは、フレーズへのアプローチにおいて対極をなしている。つまり、チェットのトランペットは「歌っている」のだ。「きらめいている」クリフォード・ブラウンと「歌っている」チェット・ベイカー、どちらも甲乙つけがたい魅力である。
歌唱については、メロディを根本に据えた彼の音作りをそのままヴォーカルに落とし込んだ歌い方であり、声の質から「中性的でうまいんだか下手なんだかわからない」などと揶揄されることもあるが、チェット独特のノン・ビブラート唱法のゆえだろう。詩を読むように言葉を紡いでいく歌い方が、心地よいリズムで無防備になっている聴き手の情緒を直接揺さぶる。「シングズ」と並んでイチ押しの一枚。