広沢虎造の全集と銘打ち、CD10枚中、8枚が清水次郎長伝である。 その内容は、清水一家の姐さん「お蝶」が亡くなるあたりから始まって、「保下田の久六」を斬り、有名な「三十石船」を経て、石松の仇討ちを果たす「追分宿の仇討ち」までを聞かせるファンには嬉しい構成となっている。 しかし嬉しいと喜んだのも束の間・・・何かがおかしい。 話が飛ぶのである。 例えば、7枚目のCDでは、石松が見受山鎌太郎に別れを告げた後、都鳥三兄弟にだまし討ちされる「閻魔堂のだまし討ち」のくだりが抜けている。 肝心の部分が抜けているものだから、見受山と別れたばかりのはずの石松が次のCDではいきなり瀕死の重傷を受けて七五郎にかくまわれている。 知らない人が初めて聴いていたら「???」である。 また、話が飛ばないくだりも尻切れトンボなのである。 例えば七五郎の女房「お民」が女度胸を見せて石松をかくまったかいもなく、石松が結局斬り殺されてしまうという大切な場面も抜けている。 知らない間に石松は死んじゃった。 えっ?と思っていると、いきなり場面は追分宿に移ってしまう。 挙げ句の果てには8枚目「追分宿の仇討」の最後では、これからいよいよ石松の仇討ちだ!というところで「丁度時間となりました〜」で終わってしまう。 いくら何でも、こりゃ、あんまりというもの。 聴いている方は欲求不満、不完全燃焼の「てぇした全集だぜ、こりゃー!」という代物であった。
CDで全集を出してくれるのは嬉しいが、これじゃあ品物いらないから代金を返せ!と思ってしまうお粗末さ。 初めての人に、これを聴いて虎造の次郎長をつまらないと思われてはあまりに残念。