フィッシュマンズのライヴ・アルバムと言えば、ポリドール移籍前の集大成的な内容の『オー!マウンテン』、言わずと知れたラスト・ライヴ収録の『男達の別れ』、そしてレコード会社にせっつかれて出したと言われるこのアルバムの3枚がある。前者の2枚については絶賛ばかりが聞かれるのに対し、このアルバムに対しては賛否両論があるようだ。
フィッシュマンズのライヴは100点か0点のどちらかだと、当時どこかのメディアで誰かが書いていたが、実際に何度か彼らのライヴに足を運んだ者としても頷ける意見ではある。いや、誤解を恐れずに言うと、私の場合はたまたまなのかも知れないが、0点を経験したことの方が多い。それでも失望せずに毎回ライヴに赴いていたのは、やはり100点が100点以上に素晴らしかったからだろう。
で、このアルバムだが、確かに『オー!マウンテン』にある幸福感のようなものは感じないし、『男達の別れ』のようにこちらの感情を揺さぶるようなものでもない。ただ、途轍もなく良かったり全然駄目だったりした彼らのライヴに通っていた当時の記憶が、このアルバムを聴くとリアルに想い出されるので、個人的には気に入っている。そう意味では私にとっては“ずっと前”がこのアルバムの肝だ。この限定盤では従来アナログに収められていた内容が初めてCD化されていて、“ずっと前”も従来のCDバージョンとはアレンジが少し異なっている。
気が付けば佐藤伸治の死からもう10年も経ってしまったが、この一連のリイシューはその節目に際してのものだろうか。私も彼の年齢を遂に超えてしまった。