何年か前の夏の終わりの深夜、部屋のメインの照明を消してスポットに切り替え、窓の外からの空気の中にわずかな秋を感じながら、その感覚にあった音楽を探していると、不意に、したたるようなビクター・フェルドマンのピアノに触発され、少し抑え気味に、これ以外の音はない・・・という音を、息と唇のコントロールで探りながら丁寧に重ねてゆくマイルスのミュートをかけた内省的な演奏、フェルドマンのブロック・コード多用のソロ、出過ぎずに、しかし的確にサポートするロン・カーターのベース・・・・が鮮烈に思い出され、無性に聞きたくなった。 Seven Steps to HeavenのLP版を買ったのは若いころだったが、その後本気でジャズを聴くことも無くなり、アナログレコードプレーヤーもとうの昔に廃棄してしまったこともあり、その存在を忘れていた。その後、本CD版の存在を知り、購入。 1963年に録音され、CBSコロンビアからリリースされたこのアルバムは、才人フェルドマンの影響が強いバラード系の演奏(ハリウッド録音)の3曲と、テンポの速いNY録音の3曲が交互に収録されており、全体として、甘さを抑えた、良くできたミルフィーユのような構成だ。ちなみに、JoshuaとSeven Steps to Heaven(マイルスに頼まれ仕事の後で一晩で書き上げた?)はフェルドマンのスコア(Seven Steps・・・はマイルスとの共作)。 CD版のジャケットは、Sketches of Spainと似たもので、背広を来て演奏中のマイルスの写真のLP(日本版のみ?)のものとは異なる。また、LPの音の記憶に比べると、CDではフェルドマンのピアノのしたたり感が減り、全体にやや乾いたように感じられるが、今となっては確かめようがない。SACD版を聞いてみたいものだ。 私が所有していたブルー系からエレクトリック系に至るマイルスのLPレコードの中で、CD版を買いたいと思ったのは、イギリス生まれのピアノの名手フェルドマンが参加する、フレーズの探求といった趣のバラードの演奏だった。マイルスの膨大な数のレコーディングの中で、後にも先にもない一瞬のきらめき。NY録音のアップテンポの曲も、若いとはいえハービーとアンソニーが加わっているせいで、演奏がスムースで引き締まっているため、古さを感じさせず、バックグラウンドとして聞いても神経に触らない。しかしこのアルバムは、やはり深夜に、空気感を伝えられるイギリス製のスピーカーとA級メインアンプの組合せで、マイルスとフェルドマン、カーター等の相互作用の様子を聞くのが楽しみな一枚だ。
【概要】革新的でスリリングなNYグループ(#2,4,6)と、保守的で味わい深いLAグループ(#1,3,5)の、2つのセッションからなる1963年録音作品。Miles Davis(tp), Ron Carter(b), George Coleman(ts-#2,4,6), Herbie Hancock(p-#2,4,6), Victor Feldman(p-#1,3,5), Tony Williams(ds-#2,4,6), Frank Butler(ds-#1,3,5)。