私が所持しているのは1995年に発売された2枚組国内盤でEMIの赤いロゴマークのものでした。
デザイン(配色)的にも愛着があり、本来そちらにレビューを書くべきですが、
同じ内容が最新の形で出ているのがこのWARNERの青いロゴマークの2枚組なので、こちらに書きます。
赤いEMIロゴマークでは、抜粋の1枚ものディスクとしても発売されたことがあり、中古を
求める際には注意が必要です。
シューマンの室内楽はより包括的な形で、質の高いセットも他に選択肢があり、就中ユボー他に
よるERART盤がタワーレコード社から復刻されている。海外版に目を向ければLe Sage他によるもの、
あるいはアルゲリッチがライヴで弾いたシューマンだけを集めたセットもある(そこではピアノ四重奏曲も
アルゲリッチがピアノを担当している)。
・しかし最も強調したいのは、この1994年9月18日のライヴでのピアノ五重奏曲の素晴らしさである。
これを初めて聴いてから24年、たくさんの同曲異演を聴いてきたが、個人的にはこれが最高といえる。
マイスキーのチェロが苦手、他の弦楽奏者もなじみのない人ばかり、にも関わらずこれを最高のものと
思わせるのは火のような熱気、何か「降りてきた」一期一会のうねり、とりわけ終楽章の弦楽奏者たちの「出」
のかっこよさ、そして大詰め、アルゲリッチの左手(低音)の響きが杭のように打ち込まれながら、畏怖しつつ
歓呼しつつフーガが炎上していくその凄み。
全体に「躁状態」といえるこの曲は、半端な演奏ではうるさいか、暢気すぎるかになってしまうが、
ここでのライヴのように演奏されるなら、常軌で測れぬ凄みが実感される。
・収録曲と演奏者を整理しておくと、
DISC1
1.ピアノ五重奏曲(アルゲリッチ、シュヴァルツベルク、ホール、今井、マイスキー)
2.2台のピアノ、2つのチェロおよびホルンのためのアンダンテと変奏(アルゲリッチ、ラビノヴィチ、グートマン、
マイスキー、ノイネッカー)
3.ピアノ四重奏曲(ラビノヴィチ、シュヴァルツベルク、今井、グートマン)…アルゲリッチが弾いていない、がそれゆえここでしか聴けない。ラビノヴィチはやや力任せなところがあり、アルゲリッチの繊細さというか振幅の激しさはない。しかしそれでもこの曲は美しい。個人的に最高なのはユボー盤とグールド盤。
DISC2
1.幻想小曲集作品73(グートマン、アルゲリッチ)…マイスキーとの共演はほかでもあるがグートマンとのこの曲は貴重。個人的にはこの曲はクラリネットの虚ろな響きが最も美しいと思うが。
2.アダージョとアレグロ作品70(ノイネッカー、ラビノヴィチ)…ここでしか聴けない。
3.「おとぎの絵本」作品113(今井、アルゲリッチ)…シューマン晩年の二重奏では、私には最も美しい曲。
4.ヴァイオリンソナタ第2番ニ短調(シュヴァルツベルク、アルゲリッチ)…このコンビが聴けるのもこれだけ。「第1番」もやってほしかった。ピアノ三重奏も。
ちなみに1995年盤ではジョーン チゼル氏の楽曲解説が濱田吾愛氏の訳で読めた。客観的な事実を折り込みながら「読ませる」内容だった。現行のこのディスクにもそれがあるかどうかは不明。