レトロなんてスマートな表現よりもコテコテと言った方がしっくり来る昭和な匂いに,ディープを通り越してドスの利いた横山剣のヴォーカルが熱くて渋いクレイジーケンバンド。本作は,初めてメジャーからのリリースとなった通算11枚目のアルバム(2009年発表)。
アルバムは,前回の東京オリンピックや万博の頃の日本を思わせる,明るく爽快なブラス・サウンドのアップテンポ「VIVA女性」で幕を開けます。サウンドは爽やかなのに,歌詞は下心が透けて見える…これがクレイジーケンバンドですね。
で,ハイライトは,やっぱり「ガールフレンド」でしょうか。いい歳して舞い上がってしまい,火遊びに。そんな後悔を甘く,それでいてブルージーなメロディーに乗せて歌ったバラード。そのカッコ悪さが逆にカッコ良い,何とも胸に染みるナンバー。続く「うっかり八時の半太郎」も個人的には大好きです。深夜を思わせるミステリアスでクールなサウンドに,ビターな展開の歌詞。懲りないチョイ悪オヤジここにあり,ってなカッコ良さがイイです。歌詞が何ともキワドイ「昼顔」。何とも痛快なブラスでご機嫌に飛ばすサウンドがたまりません。
クレイジーケンバンドというと,下心丸見えの歌詞が目立ちますけど,ジーンとくる詞もあるんですよね。それが「SOUL通信」。本当に横山剣さんって心底ソウルが好きなんですね。ひたむきで熱い歌声と詞に心打たれます。同じ意味で人情味あふれる歌詞に魅かれるのがエンディングの「俺の夢」。コミカルで演歌っぽく聞こえるファンク・サウンドがユニークですが,住み慣れた町をこよなく愛する歌詞が痛快。人口減社会を迎えた今の日本には,こんな心意気が大切ですね。
ちょっとブルージーでレイドバックしたサウンドに心安らぐ「熱波」。サビで掛け合う菅原愛子のキュートな歌声もイイです。80年代ソウル好きには「DUET」。メロウで緩やかにスウィングし,やがて夢見心地の境地に入るサウンドがたまりません。菅原愛子のしなやかで伸びやかな歌声もイイです。
ファンキーで最高にイカしたジャズに,演歌っぽい歌を乗せるという発想も見事にハマっている「山の音~そうだ、京都に行こう。」も最高です。
どの曲もアクが強いぐらい個性的な曲ばかりですが,ソウルマナーをわきまえているっていうんでしょうか。ツボを押さえたサウンドと相まって,クレイジーケンバンドならではのカッコ良さを創り上げています。これはクセになります。