オーソン・ウェルズの『審判』(原作はフランツ・カフカ)を見た。
opの「アニメ」・・・あれは悪夢の論理だそうで、この映画はそれを語ってゆく悪夢のような物語。主人公ヨーゼフ・Kは、誰もはっきりしたことは言わない容疑(本当は「ない」のだと思う)のためある朝突然とらまってしまって(と言っても、ふつうの日常を送れるのですが、いつもチェックされている状態)、その右往左往する「悪夢的映像」が本当に素晴らしく目が釘付けになります。
<内容に触れ、ネタバレかもしれません>
opのアニメで・・・その絵の「法の門(扉)」はここへやってきた1人の男、彼だけのためのものだと「番人」は言う(これは「なぜ誰も他に訪ねて来ないのか?」と訊いたその男への答えなのですが、結局その男に対しても扉は開かず・・・つまり法の扉は誰にも開かないものなのだ・・・というより、そもそも他の人間は誰もそこへ行きもせず、法がどうのこうの何てことはこれっぽっちも気にしていないんだということのように思います。
映画のラストで・・・オーソン・ウェルズ演じる(巨体の)弁護士さんがヨーゼフ・Kに向かい「世界」というものを納得させようと、「一緒にゲームをしない限り道はないゾ!」と言っているのだと思いますが、ヨーゼフ・Kはそんな「ゲームな社会」でなく「自分は(ちゃんとした)社会の一員だ!」と言い張ってあそこを出て言ってしまう。と、そこには死刑執行人が待ち受けている・・・最後の場所に来る途中ヘンなモニュメントのようなものが建っていて、これは初めの方でヨーゼフ・Kが審問書に入ってゆく手前で白い布に被われた大きな物があったあの場所(ラストのこの場所に「あの場所」が急にくっついているように見える町の作りも「悪夢度」を増していて面白い)。あの場所には、おじいさんとおばあさんの団体が肌シャツとパンツのような格好でネームプレートを胸に下げて佇んでいた・・あれは死刑を待つ人たちなのか?モニュメントの白い布は何?これらははっきり語られず謎は残ります・・・
さてラストを先に書いてしまいましたが、全体のあらすじのようなものは・・・
(アンソニー・パーキンスが持ち前の神経質な感じを上手く生かして熱演する)ヨーゼフ・Kの身に突然ふりかかったできごとに、周りの体制順応的な人たちは何の不思議感も持たず(というより、会社の上司登場シーンにチラリとあるように、どうもああいうおかしな捏造がいくつも重なったあげくヨーゼフ・Kはとらまったのではないか?とも見えてくる)、とにかく「そうなったからには、こうすれば割とましだヨ」ということをどの人もヨーゼフ・Kにアドヴァイスしてくれます。
ヨーゼフ・Kのおじさんは、彼の友人で高名らしい弁護士を紹介してくれますが・・・その弁護士さんの大きなお屋敷はとても魅力的だが何やらおどろおどろしくもあり(書類が文字通り「山積み」となった部屋もある)、大きなゴテゴテしたベッドの中に(ナースだという)レニという女の人を侍らせて、病気を理由に全く働く様子はない・・・とヨーゼフ・Kの目には映ります。
そうした中、ヨーゼフ・Kはまず審問所を「大演説」で蹴ってしまい、弁護士への「依頼」を蹴ってしまい、レニが最後に教えてくれた、裁判官を専門に描いている画家(なぜか何人ものローティーンの少女群団に取り囲まれて暮らしている)トルティニの、「のらりくらりとやり過ごせ!時間稼ぎを死ぬまで続けなさい。皆そういうとこで生きているんだヨ。」というようなアドヴァイスも蹴ってしまい、脱出しようと走りに走りあのラストの教会に着いたところで有罪となってしまっていて・・・そこでさらにちょっとした「ひっかっかり」も自分から完全に切ってしまい、とうとうああなったと見ることが🉑かと思います(ヨーゼフ・Kは審問所のびっくりするような大群衆の前でびっくりするほど高いところにそそり立つような被告席で、「これは誰に起きてもおかしくないことだ!」と大演説します。こんなことは日常茶飯事の悪夢の世界の物語・・・それが自分を取り巻く世界と思えてなりません・・・というのがフランツ・カフカの気持ちかと思うと、とても他人事とは思えず・・・)。
未完だという小説『城』(←このオープンなエンドもとても好きです)と違い、『審判』はシヴィアなラストを持つ物語。そこへ向かって突き進む、運動神経のとても良いアンソニー・パーキンスの行動そのものはアクションと言って良いくらいで、内容もサスペンスフルで『城』と比べハードな中盤以降なのですが・・・
それが彼女の役割なのか、ヨーゼフ・Kに身の処し方を口早にアドヴァイスするレニ(ロミー・シュナイダーの他の作品では見られないようなチャーミングな怪演)は相変わらずヘンな魅力に溢れているし、ヨーゼフ・Kに対して「付き合いたい」とか「従兄弟は結婚🉑ですヨ」とか言う、この娘ですらここでの生き方を心得ている16歳のアーミー(彼女のことが会社の上司の誤解の元なのか?)は、とにかく可愛らしくオーバーコートも可愛い・・・弁護士のところにいる依頼人のブロック氏は無精髭の顔をヨーゼフ・Kにすり寄せんばかりにして妙に親しげ。やっと本心を見せるのか?というシーンのこの役者さんの何とも言えない可笑しさ。審問所番人の強烈な顔。番人の妻(スザンヌ・フロンも静かな怪演)を担いで走り回る法学生の無法な姿などなど・・・
前半に引き続き登場人物のキャラクターの面白さに目が離せず、大道具・小道具はもうたまらない!(体育館を使っているように見える広大な建物。古かったりボロかったりを手抜かりなく見せる美術の素晴らしさ。「女中部屋」は中でも圧巻のボロ美術で、こういう部屋は『城』にもありましたがカフカ的フェティシズムの現れなのかもしれない。読んでいない『審判』だけど、きっとすごくよく再現されていると想像のつく気がします。)
ヨーゼフ・Kは登場するほぼ全ての女の人にモテていますが(笑)、これはただ単にモテるというより・・・女の人たちは皆、この世界の「掟のようなもの」とヨーゼフ・Kとの間を取りなしているようで、それがヨーゼフ・K的人間たち(他にもいるのだと思う)に対する女の人たちの役割のように見えます。例えば初めの下宿の奥さんにしても、ヨーゼフ・Kが突然とらまったことを少しも驚いていません。下宿の奥さんは「牢屋には入れられないわヨ」と取りなし気味でこうしたことに騒いでも逆らっても仕方ないという気分が見て取れ、何かそのような役割のように思えますが・・・マリカ(ジャンヌ・モローがヨーゼフ・Kの隣の部屋の下宿人を妖演&怪演)はそういうことがない人のようでとても驚き、「きっと重罪よ!何をしでかしたの?私を巻き込まないで!」と騒いでしまうので・・・やっぱりマリカはああいうことになってしまう・・・どうもマリカもこの世界を生きて行きにくそうに見えるのも興味深いものがありますが、それに対して弁護士のところのレニや審問所番人の奥さんは、その地位からしてこの世界のプロ中のプロのよう・・・
こうしたもの(こと)に目を奪われる本作の楽しさ。それと同時に(前半でも思い切りの良い場面転換など印象的ですが)中盤以降は物語全体がどこかへ運ばれて行ってしまうようなスピード感でシリアスムードが加速し、ヨーゼフ・Kはどんどんと望みのない方向へと周りの全てが(ウラで)一致団結して・・・連れて行ってしまった・・・かのような『審判』。
審判 【ベスト・ライブラリー 1500円:第2弾】 [DVD]
フォーマット | ドルビー, ワイドスクリーン, ブラック&ホワイト |
コントリビュータ | フェルナン・ルドゥ, マイケル・ロンズデイル, ジェス・ハーン, アンソニー・パーキンス, オーソン・ウェルズ, シュザンヌ・フロン, ロミー・シュナイダー, ジャンヌ・モロー, アキム・タミロフ, エルザ・マルティネッリ, マドレーヌ・ロバンソン 表示を増やす |
言語 | 英語 |
稼働時間 | 1 時間 48 分 |
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- オーソン・ウェルズのフォルスタッフ HDマスター [DVD]オーソン・ウェルズ、キース・バクスター、ジョン・ギールグッド、ジャンヌ・モロー、イングリッド・ピット、マーガレット・ラザフォード、マリナ・ヴラディ、ワルテル・キアーリDVD
商品の説明
カフカの名作をもとに、オーソン・ウェルズの卓越した演出手腕と豪華キャストの名演技で描く、不条理ドラマの傑作!
無数の机が並び、無言で背を向けてタイプする行員たち。ジョゼフはここの管理職だった。ある朝、身に覚えのない罪で“逮捕”を宣言される。しかし、拘束されることはなく、就業時間後開かれる審理に出席。傍聴人すら仕込まれており、疑心暗鬼に陥る。叔父マックスが紹介する弁護士ハスラー(ウェルズ)も裏では当局とつながっており、ジョゼフはその付添いの看護婦と刹那的な情事に耽り逃避するが、彼女は“男なら誰とでも”と自ら言うような女で、彼を惑乱させる。
■1963年フランス・イタリア・西ドイツ作品/1964年劇場公開
■モノクロ
■本編:約108分
■16:9LB(ビスタサイズ)
■片面2層
■音声:英語(2.0ch)
■字幕:日本語
《特典》ウェルズ カフカ“審判”、オーソン・ウェルズ 光の設計者、予告編、フォト・ギャラリー
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商品に封入されている専用ハガキに印字されている7桁の数字と、毎週金曜日にジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメントのホームページにて発表する当選番号が一致すると現金3万円がもらえる!毎週5名様に当たる、総額360万のドリームボーナス!
※番号が一致しましたらその当選ハガキにてご応募ください。
キャンペーン期間:2009年7月10日~2010年1月31日
※映像特典、商品使用、ジャケット写真などは予告なく変更となる場合がございますのでご了承ください。
登録情報
- アスペクト比 : 1.66:1
- 言語 : 英語
- 梱包サイズ : 18.03 x 13.76 x 1.48 cm; 83.16 g
- EAN : 4988102716738
- 監督 : オーソン・ウェルズ
- メディア形式 : ドルビー, ワイドスクリーン, ブラック&ホワイト
- 時間 : 1 時間 48 分
- 発売日 : 2009/9/2
- 出演 : アンソニー・パーキンス, ジャンヌ・モロー, ロミー・シュナイダー, シュザンヌ・フロン, エルザ・マルティネッリ
- 字幕: : 日本語
- 言語 : 英語 (Mono)
- 販売元 : ジェネオン・ユニバーサル
- ASIN : B002DYXZ62
- ディスク枚数 : 1
- カスタマーレビュー:
イメージ付きのレビュー
4 星
黒い喜劇映画
伝説的カメラマン、エドモン・リシャールの撮影で、お馴染みのパンフォーカスからロングショットの長回し、奥行きのある画面から閉鎖的な雰囲気まで展開する、ギンギラギンにさり気ある画面構成、膨大なエキストラ、さらにはジャンヌ・モロー、ロミー・シュナイダー、エルサ・マルティネッリなどの名だたる美人女優を贅沢に使っていて、思う存分金をかけてオーソン・ウェルズのこだわりを全開させた映画。原作と一番違うのは、主人公を最後に派手に爆死させたところだが、これはこれ自体が何かのメッセージというより、これくらいのほうが賑やかな全体の雰囲気をしめくくるには相応しいという配慮からだろう。個人的には、アンソニー・パーキンスの演じるヨーゼフ・Kは、むしろ軽い演技で、カフカ作品の、状況と行為のズレからくる喜劇性を際立たせているところが一番印象的でした。
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上位レビュー、対象国: 日本
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2022年3月12日に日本でレビュー済み
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2023年11月21日に日本でレビュー済み
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伝説的カメラマン、エドモン・リシャールの撮影で、お馴染みのパンフォーカスからロングショットの長回し、奥行きのある画面から閉鎖的な雰囲気まで展開する、ギンギラギンにさり気ある画面構成、膨大なエキストラ、さらにはジャンヌ・モロー、ロミー・シュナイダー、エルサ・マルティネッリなどの名だたる美人女優を贅沢に使っていて、思う存分金をかけてオーソン・ウェルズのこだわりを全開させた映画。原作と一番違うのは、主人公を最後に派手に爆死させたところだが、これはこれ自体が何かのメッセージというより、これくらいのほうが賑やかな全体の雰囲気をしめくくるには相応しいという配慮からだろう。個人的には、アンソニー・パーキンスの演じるヨーゼフ・Kは、むしろ軽い演技で、カフカ作品の、状況と行為のズレからくる喜劇性を際立たせているところが一番印象的でした。
伝説的カメラマン、エドモン・リシャールの撮影で、お馴染みのパンフォーカスからロングショットの長回し、奥行きのある画面から閉鎖的な雰囲気まで展開する、ギンギラギンにさり気ある画面構成、膨大なエキストラ、さらにはジャンヌ・モロー、ロミー・シュナイダー、エルサ・マルティネッリなどの名だたる美人女優を贅沢に使っていて、思う存分金をかけてオーソン・ウェルズのこだわりを全開させた映画。原作と一番違うのは、主人公を最後に派手に爆死させたところだが、これはこれ自体が何かのメッセージというより、これくらいのほうが賑やかな全体の雰囲気をしめくくるには相応しいという配慮からだろう。個人的には、アンソニー・パーキンスの演じるヨーゼフ・Kは、むしろ軽い演技で、カフカ作品の、状況と行為のズレからくる喜劇性を際立たせているところが一番印象的でした。
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2021年9月20日に日本でレビュー済み
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カフカ作品の映画化の中で歴史的に最も成功した作品。近年では『城』の映画化に観るものが在ったが、このオーソンウエルズ作品ほどではない。若き日の麗しいロミーシュナイダーが出演している事で、晩霞に咲き誇る一輪の白百合のような艶美な魅力を放っており、観賞後も永久に忘れられない。
ある日、ヨーゼフKが、全く身に覚えがないのに逮捕される。居宅を許されるが、一体なぜ私は逮捕されねばならなかったのだろう、と自らの罪状を探しあぐね、彷徨する。法廷へ出廷しても罪状は明らかにされない。誠に不可思議でしかない。ヨーゼフKはどんどん追い詰められて行き、最後は石切場で『まるで犬のようだ』と最期の言葉を遺すと殺されてしまう。
カフカは何を読者に伝えたかったかと言えば、明瞭である。年配の方や、子供が観るより、多感な時期を過ごしている若者に特に見て欲しい映画だ。すなわち、我々人間は生きていく以上必ず罪を犯さなければ生きて行けない、と言う事を強く主張している。例えば食事一つとっても、我々は生物を殺して摂取し、生きながらえているのである。これは罪でなくしてなんだろう?我々は生きるために常に嘘をついている。嘘なしの人生はあり得ない。これは罪でなくしてなんだろう?、、、、、。
このように我々は本来何人たりとも罪人である事をカフカはその類稀な文才で美事に結晶化させたのである。オーソンウエルズのこの作品もよく小説の精髄を映像化している。カフカの作品の総ては一貫して人間と社会の本性をアイロニカルに描き出して非常に美事である。ぜひ、小説も映画も総てチェックして、彼を深く研究して欲しい。存外の収穫が汲めども尽きぬ泉のようにあなたの心の核心めがけて湧き上がって来るはずである。
ある日、ヨーゼフKが、全く身に覚えがないのに逮捕される。居宅を許されるが、一体なぜ私は逮捕されねばならなかったのだろう、と自らの罪状を探しあぐね、彷徨する。法廷へ出廷しても罪状は明らかにされない。誠に不可思議でしかない。ヨーゼフKはどんどん追い詰められて行き、最後は石切場で『まるで犬のようだ』と最期の言葉を遺すと殺されてしまう。
カフカは何を読者に伝えたかったかと言えば、明瞭である。年配の方や、子供が観るより、多感な時期を過ごしている若者に特に見て欲しい映画だ。すなわち、我々人間は生きていく以上必ず罪を犯さなければ生きて行けない、と言う事を強く主張している。例えば食事一つとっても、我々は生物を殺して摂取し、生きながらえているのである。これは罪でなくしてなんだろう?我々は生きるために常に嘘をついている。嘘なしの人生はあり得ない。これは罪でなくしてなんだろう?、、、、、。
このように我々は本来何人たりとも罪人である事をカフカはその類稀な文才で美事に結晶化させたのである。オーソンウエルズのこの作品もよく小説の精髄を映像化している。カフカの作品の総ては一貫して人間と社会の本性をアイロニカルに描き出して非常に美事である。ぜひ、小説も映画も総てチェックして、彼を深く研究して欲しい。存外の収穫が汲めども尽きぬ泉のようにあなたの心の核心めがけて湧き上がって来るはずである。
2019年3月29日に日本でレビュー済み
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カフカの小説『訴訟』に基づいた本作は『審判』と題されているが、なぜタイトルが異なるのかはググってみれば分かるので、そのあたりの経緯(=プロセス=Der Process=訴訟)は省略するとして、ですね。
カフカファンとしては、あの悪夢のような、一方でギャグ満載の喜劇のような、徹底的にねじれた時空をどのように映画にしたのか、ということに関心が行くわけですが、さすがはウェルズ、あっと驚く圧倒的な映像で見る者をいい意味でぶちのめしてくれます。
冒頭のアパートの構造からして、なにやらめまいを覚えます。隣室のビュルストナー嬢を演じるのがジャンヌ・モローだったり、グルーバッハ夫人がたいしてデブでもないのが原作のイメージとの齟齬を感じさせますけども、そんなことはどうでもいいことだと思わせてくれるだけの映像美があります。
その後も、カフカ作品ならではの錯綜した空間を、まさに錯綜した空間として映像に定着させていく手腕はとんでもないもので、ウェルズがいかに創造力/想像力をはたらかせてこの作品を作ったかがひしひしと伝わってくる作りになっています。
何百人ものエキストラによる職場のオフィスのシーンなど、今ならCGでやるのでしょうけども、人力でやっているがゆえの迫力が画面にみなぎっています。アパートの外の風景は印象的だし、職場のコンピューターのシーンはSF映画のようだし、ティトレリの住居に向かうときの少女たちの群れはもはやホラーです。
原作そのものが、総合的に「おわることのない悪夢」のようであって、「理由もなく逮捕され、不本意ながらも訴訟に巻き込まれていく主人公のあてのない彷徨」という経過(プロセス)のみが延々と続くので、映画としても延々とやってもらいたくはあるけれども、映画としてはこのくらいの尺がちょうどいいかもしれません。
カフカにあって、論理はつねに敗北するのであって、それがいっぱんには「不条理」とも思われるけれども、しかし実際のところ、われわれ一般人のくらしにあっても、論理というものが貫徹する場などほとんどないのだから、われわれのくらしもこの映画の主人公のいる世界とそう大差のない、途方もないずさんさのなかで推移しているようにも思われます。
途方もないずさんさのなかで、いろんな人とずさんに出会い、ずさんに恋をし、ずさんに職を選び、ずさんに生き、ずさんに死ぬのかもしれません。
とにかく、この映画の映像美は一見の価値あり、です。
カフカファンとしては、あの悪夢のような、一方でギャグ満載の喜劇のような、徹底的にねじれた時空をどのように映画にしたのか、ということに関心が行くわけですが、さすがはウェルズ、あっと驚く圧倒的な映像で見る者をいい意味でぶちのめしてくれます。
冒頭のアパートの構造からして、なにやらめまいを覚えます。隣室のビュルストナー嬢を演じるのがジャンヌ・モローだったり、グルーバッハ夫人がたいしてデブでもないのが原作のイメージとの齟齬を感じさせますけども、そんなことはどうでもいいことだと思わせてくれるだけの映像美があります。
その後も、カフカ作品ならではの錯綜した空間を、まさに錯綜した空間として映像に定着させていく手腕はとんでもないもので、ウェルズがいかに創造力/想像力をはたらかせてこの作品を作ったかがひしひしと伝わってくる作りになっています。
何百人ものエキストラによる職場のオフィスのシーンなど、今ならCGでやるのでしょうけども、人力でやっているがゆえの迫力が画面にみなぎっています。アパートの外の風景は印象的だし、職場のコンピューターのシーンはSF映画のようだし、ティトレリの住居に向かうときの少女たちの群れはもはやホラーです。
原作そのものが、総合的に「おわることのない悪夢」のようであって、「理由もなく逮捕され、不本意ながらも訴訟に巻き込まれていく主人公のあてのない彷徨」という経過(プロセス)のみが延々と続くので、映画としても延々とやってもらいたくはあるけれども、映画としてはこのくらいの尺がちょうどいいかもしれません。
カフカにあって、論理はつねに敗北するのであって、それがいっぱんには「不条理」とも思われるけれども、しかし実際のところ、われわれ一般人のくらしにあっても、論理というものが貫徹する場などほとんどないのだから、われわれのくらしもこの映画の主人公のいる世界とそう大差のない、途方もないずさんさのなかで推移しているようにも思われます。
途方もないずさんさのなかで、いろんな人とずさんに出会い、ずさんに恋をし、ずさんに職を選び、ずさんに生き、ずさんに死ぬのかもしれません。
とにかく、この映画の映像美は一見の価値あり、です。
他の国からのトップレビュー
AG
5つ星のうち5.0
Great Blu Ray of a Great Film
2015年10月30日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
Such an underrated Welles masterpiece. I had owned a crappy VHS of this from years ago, but watching this beautiful transfer was like seeing the movie again for the first time. Great print, good audio (the dubbing was off on previous versions, this one is far less distracting), and just a terrific film. The menus are in Japanese but it appears that the only content is the movie, so you just have to click a couple times if you're not sure and you'll either get the scene menu or the movie itself. Can't recommend this highly enough: until Criterion or someone does a proper US version, this is a perfectly fine (albeit expensive) substitute. Lastly, I have a standard blu-ray player and it played fine - no region issues at all. If you love Welles at all I highly recommend!
Surabaya Johnny
5つ星のうち5.0
A definitive copy of Orson Welles' masterpiece!
2019年3月30日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
THE TRIAL had always been my favorite Orson Welles film, but, up to now, you could only get cheap "public domain" copies of it. Of which I've had a few. This masterful restoration by StudioCanal makes up for that and is well worth the wait. Only available on import, this Japanese disc was more pricey than the French version, but it is region 1, the French being region 2. I miss out somewhat on the liner notes and bonus material being in Japanese, but the film is in English. So if you're as big a fan of this film as I am, you need to get this.
Layman
5つ星のうち5.0
Flawlessly captures the feeling of a dream.
2017年2月9日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
Every shot in this movie is beautiful beyond words. I've never seen black and white like this before, and I can't get this film out of my mind. This is surely one of Orson Welles's greatest achievements. Movies have always been compared to dreams, but no film has ever captured that feeling or as Orson says "the logic" of a dream so well. It's one long dream/nightmare full of anxiety, beauty, and surreal weirdness. Artistry to the max.
This specific product, a Blu-Ray from Japan, is the best way to see it now. Hopefully Criterion will do something about that soon, but the Blu-Ray worked perfectly on my devices.
This specific product, a Blu-Ray from Japan, is the best way to see it now. Hopefully Criterion will do something about that soon, but the Blu-Ray worked perfectly on my devices.
Nomlac
5つ星のうち5.0
it is one of his greatest movies, along with Citizen Kane
2014年9月2日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
I had already seen this Orson Welles masterwork and also had the dvd, but it was an old copy, I wanted a new one. I don't have to praise The Trial, it is one of his greatest movies, along with Citizen Kane, Lady of Shangai and Touch of Evil. It was difficult to find a copy, all of them were Region 2, and here in Brazil only Region 1 works. In desperation I tried a japanese copy, without much hope. I had the great surprise and delight of receiving this import of Japan, not only in a reasonable time but in great condition and with a beautiful cover. It was foolish of me, japanese people are known for their competence and rigour. Thanks Amazon, Japan and... Orson.
Amazon Customer
5つ星のうち5.0
Packaging Review
2016年3月11日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
Attached are some photos of the packaging. Cover art for the case and full slipcover are both great in their own ways. The case is a transparent black, which I have yet to see elsewhere, and very sturdy. The full slip is fairly sturdy as well; made out of lightly textured paper, much like the earlier Criterion digipak releases (e.g. Repo Man, Seven Samurai). Booklet has some neat drawings, in the style of the full slip artwork, all text is in Japanese. Overall, simple, yet great packaging. Also can confirm that it works on region A players and that there are only Japanese subtitles.
Amazon Customer
2016年3月11日にアメリカ合衆国でレビュー済み
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