「Scar」から始まった傑作アルバム連発は、玄人と評論家筋を巻き込んで「Civlians」までほとんどが年間ベストにあげられている。事実、傑作揃い。音楽評論家の渡辺亨さんがInvitationで「Tiny Voices」を取り上げていて、そこからは僕はどっぷりハマって行った。それでも「Civlians」には、すこし?マークが個人的についたのも事実。ダビーなエフェクトの効いた音世界を期待していたのに対して、「Civlians」は、まっとうなシンガーソングライター然としたアルバムだったからだ。それでも出すアルバム出すアルバムが毎回評価が高いと、新譜については大抵懐疑的な気持ちで購入するのが常となる。音楽好きなら尚更だ。そんなアーティストの一人、ジョー・ヘンリーは果たして、今回はどう打って出るのか?
この「Blood From Stars」は、前作の歌モノ世界に「Scar」のジャズ風味を足して、また新しい音世界を築き上げた傑作だ。マーク・リーボウがフリーキーなギターを弾けば、息子であるリヴォンのサックスは縦横無尽に駆け巡る。歌詞はブルースのようにリバースが多いが、その歌詞の深淵さは最近の音楽では類を見ない、巧みな歌詞だ。
前作を製作する前にプロデュースしたアルバムがラウドン・ウェインライトにメアリー・ゴーシェイ。つまりはソングライターたちの作品だ。このアルバムの前にプロデュースしたアルバムがランブリン・ジャック・エリオット。つまり、今回のアルバムのテーマはブルース。その時々のプロデュースアルバムが自身のアルバムのモチーフになる。そう考えれば前作のアルバムのテーマもよく分かる。今回は、ジョー・ヘンリー流のブルース・アルバム、と言っていいのではないだろうか?
また、ジョー・ヘンリーは、マルケスなどを読む読書家であり、端正な文章を書く。英語に疎いならば国内盤を購入して、ライナーを読んでみる事をお勧めする。前作「Civlians」は、ソングライティングに重きを置いた作品であり、その歌詞が特に重要で、中でも「Our Songs」は、アフター9・11のアメリカを描いた感動的な歌、であり、おそらくそれが評論家の人々の間でも高評価を得た、ひとつの要因だと思う。
今年のベストアルバム候補に挙げられるのは間違いない傑作。誰もが手放しで褒めるでしょう。音楽が好きならば、まずは必聴。このアルバムから前のアルバムに遡るのもいいかもしれない。聴いてみて下さい。