2009年、最も自分の心を熱くさせてくれたロック・アルバム。
発表されて3ヶ月になるが、今も頻繁に愛聴している。
初聴時は先行シングルでもあった「ジェイソン」のインパクトが余りに強烈であった為、あたかも全編直球
の前向きな作品だと錯覚していたのだが、先日歌詞カードをじっくり読みながら通して聴き返してみると、
各々単体でも良質の短編小説として通用する12編の詞から湧き立つ映像が決して一本槍ではなく、実
に起伏に富んだドラマチックな流れとして繋がっていることを発見した。
前半6曲は注意深く歌詞を拾うと、「雨(さみだれ)」「悲しみ」という二つの言葉が頻繁に使われており、楽
曲自体の雰囲気も、行き場のない心を持て余す主人公を反映するように、メジャーなコードを鳴らしなが
らもどこか憂鬱な雰囲気に覆われる。ここまで「陰」の印象の曲を固めた作品は、彼らの作品では聴いた
ことがない。音楽自体とアーティストの個人事情を結びつけるのは好きではないが、恐らく長年の共同体
、矢部氏の止む無い脱退に対する直枝氏の心情もこれらの詩に少なからず影響しているのであろう。
主人公の悲しみは前半のラスト「Willow in Space」でクライマックスを迎える。直枝氏はあえて感情の高
まりを抑えた歌い方をしており、バックの弦楽器やチェレスタの幻想的な音色と相まって、却って聴き手の
心情を熱くさせる。「ジェイソン」が「陽」の名曲なら、この曲は「陰」の名曲だろう。
そこで気がついた。「ジェイソン」の爆発力は、前半の抑えた流れがあったからこそ、より際立つのだと。
「ジェイソン」からの後半6曲は、前半の静の流れとは別作品と思える程、躍動感・前向きな空気に満ちて
おり、聴く側のテンションを終曲に向けて一直線に上げてくれる。「ジェイソン」は他レビュアーの方が実に
うまい表現をされている通りの「ど」直球ラヴソングであり、前半の陰鬱な雰囲気を吹っ飛ばす作品心臓部
に置かれた大爆弾。「愛してるたとえ死んでもずっと」等、普通に歌えばただ気恥ずかしい言葉が、今まで
の作品の流れの中で聴くと実に感動的に響くから不思議だ。
他にも乾いたギターコードの響きにただ聞き惚れる「For Your Love」や、カントリー調の「砂丘にて」等、聴
き手の心を晴らす秀曲が続き、後半のクライマックス「遠い空、響く声」を迎える。バックのピアノのきらめく
ようなフレーズが印象的な曲であり、主人公が見る夕暮れ空は快晴であり、聴き手の心もまた然りの名曲。
こうして作品を丁寧に追っていくと、実に一本の映画の如く感動的に曲が配列されているのに驚く。
単体でも十分良い曲の集まりだが、出来れば本作は時間のある時に、歌詞カードをじっくり読みながら頭か
ら通して聴くことをお薦めする。きっと新たな感動が得られるはずです。