まさか「河原の石川五右衛門」をカバーする人が現れるとは…!!
時代は変わりました。
評者がこの曲を初めて聴いたのは1984年4月に発売された「NIAGARA BLACK VOX」の中の「Let's Ondo Again」の完全復刻LP盤。(山崎ディレクターのライナーノーツにこのボックスセットについての言及がないのは、少々淋しかったです。)
一聴してはまり込みました。
ピンクレディー全盛期に中学~高校生だった評者の周囲には「ピンクレディーなぞ幼稚な音楽」とはなから見下す人が多かったのですが、これを聴かせると「えっ、こんなのあるの?大滝さんが作ったの?」と、たちまち大爆笑でした。1984年当時大学生だった評者は、大滝さんや南佳孝さん、松田聖子さん、薬師丸ひろ子さんらの歌声を通じて、松本隆さんの文学性を意識した詞の世界に心酔していましたが、音楽を聴く時は最後に必ず「河原の石川五右衛門」をかけて、不覚にも”幼稚な音楽”に対して感受性を持っていた1970年代の自分自身を笑い飛ばすようにしていました。(そういった考え方自体が幼いものであったと気づくまでには、さらに数十年の時間を要しました。)そのおかげで今でも「S・O・S」を耳にする際には、♪京の河原では~とつい歌い出してしまいます。
この歌は替え歌としてもよくできています。
シンドバッドを日本の伝説の盗賊に置き換えて、原詞の音も意味も細部にわたってパロディーにしています。後になって「日本語のロック」を追い求めながらも日本古来のリズムやメロディーを常に意識していた、はっぴいえんどの頃から一貫した大滝さんの姿勢の、ひとつの側面を表している作品なのではないかと感じるようになりました。パロディーをやるのならば作品と作者(この曲の場合は阿久悠さん)に対するリスペクトを持ち、徹底して遊ぶ。そんな大滝さんの、A LONG VACATIONとはまた違った意味での会心作だったのでしょう。
しかしこのカバーには惜しい点がひとつ。
今の若い女性に歌わせては画竜点睛を欠きます。
オリジナル制作当時、既にベテランの域にいたシンガーズ・スリー(長万部キャッツ)にリードボーカルを取らせた狙いには「女は若いだけが価値ではない」という、当時のアイドル歌謡に対する風刺も含まれていたのではないでしょうか。本作ではオリジナルにおける年増の妖しい匂いが表現できていません。そこに真っ先に気づくのは、評者自身が既に若さを失っているからなのでしょうね。
このアルバムの「S・O・S」では、堀ちえみさんの「ある曲」の一節がさりげなく盛り込まれています。当時の歌謡曲ファンならば思わず嬉しくなってしまうような仕掛けにあふれた、楽しいアルバムです。
(2018年1月3日追記)
2017年の日本レコード大賞で阿久悠さんに特別賞が贈られ、ピンク・レディーがステージで歌う場面を見て久しぶりに本盤を思い出しました。他のトリビュート曲も一通り聞きましたが、妙に現代風にアレンジしてある人気全盛の頃の曲よりも、人気に陰りが出始めた頃にリリースされた「カメレオン・アーミー」のほうが完成度が高いと感じました。
この曲は「アミづくし」として尾崎亜美さんと大貫亜美さんがデュエット、奥田民生さんのギター演奏ですから年季が違います。
オリジナル盤のイントロは「およげ!たいやきくん」を想起させるもので、あの都倉俊一さんが引用を行うとは相当疲弊していたことが改めてうかがえますが、そういえばPUFFYのナンバーにも「およげ!たいやきくん」のパロディーのような歌詞の曲があったねえ、と思い出した次第です。
ピンク・レディーのオリジナルはS・O・Sにしても渚のシンドバッドにしても、3分足らずであっさり終わってしまいますが、カバーは本盤収録バージョンに限らずどれもじっくり長く演奏しているあたりも面白いですね。
そういえば、ピンク・レディーの二人は「河原の石川五右衛門」の存在に気づいているのでしょうか?