冒頭からシュターツカペレ・ドレスデン特有の荘重なサウンドが響き渡る。ブロムシュテットはオーケストラの持ち味を最大限に発揮させる指揮者だが、ここでも彼らの華美にならない音色が落ち着いたテンポ設定によって生かされている。安直に言ってしまえば正統派以外の何ものでもないのだが、決して凡庸という意味ではなく、全曲に通じる構成力の確かさやダイナミズムの鮮やかな変化は、この作品に新しい生命を吹き込んでいるような生気を感じさせる。第2楽章での硬質な抒情が歌われる中で、後半ペーター・ダムのホルンに支えられたコンサート・マスター、ペーター・ミリングのヴァイオリン・ソロも輝いているし、終楽章のコーダに向かって緊張を高める求心力も見事だ。ブロムシュテットはこれまでに2種類のベートーヴェン交響曲全集を始めとして、シューベルト、ブルックナー、ニールセン及びシベリウスなどの交響曲全曲録音を果たしてきたが、ブラームスに関しては同じオーケストラでの全集はなく、第1番をシュターツカペレ・ドレスデン、第2番及び第4番はライプツィヒ・ゲヴァントハウスとの音源が存在するが、第3番が欠けている。理由は分からないが、機会に恵まれなかったのだろう。尚この音源は2009年にリリースされたディスクのリイシュー盤になる。
ライヴなので客席からの雑音が若干入っている。録音状態はオン・マイクで採った良好なもので、それぞれの楽器のパートごとのアンサンブルも明瞭に聴き取れるが、全体的なバランスにやや偏りがある。例えば中低音は豊かだがいまひとつ焦点がぼやけている。またブラス・セクションに比較して弦楽の高音部が多少弱い。これは当時使われた演奏会場、ドレスデンのクルトゥーア・パラストの弱点だろう。1969年開場の1400名収容多目的ホールで大戦末期に空襲で大破したゼンパーオーパーが85年まで修復工事で閉鎖されていたので、クラシックのための音楽ホールとしても急場凌ぎに使われていた会場だ。セッションであればルーカス教会が理想的だが、録音データを見ると91年6月7日のライヴなので、復帰したゼンパーオーパーはオペラ公演で塞がっていたのかも知れない。現在このクルトゥーア・パラストも5年間かけて大改装され、2017年に大オルガンを装備した専用の音楽ホールとして再オープンしてドレスデン・フィルハーモニーの活動の本拠地にもなっている。