松本清張60歳(1969年~)脂ののった作家はこの年、週刊朝日を足場にして次々と、中編の傑作を書き続けていた。「黒の図説」シリーズである。連作の前半6編、「鴎外の婢」「速力の告発」「六畳の生涯」「書道教授」などが、文芸春秋・清張全集第10巻に収録されている。従って「書道教授」を読むには当全集第10巻、もしくは文春文庫・宮部みゆき篇「清張傑作短編コレクション、中」、光文社文庫「鴎外の婢」のいずれかをを入手されたい。
本作は何度かドラマ化されている。一つは近藤正臣、加藤治子、風吹ジュン出演になるもの。
近作は、ジェームズ三木脚本で、船越英一郎、杉本彩主演。ドラマの舞台を京都に設定、謎めいた書道教授の女性像が膨らまされた。主人公は軽薄ではあるがごく普通の銀行員なので、船越はまさに適役。
バーの女に入れあげ、会社のカネに手を付ける。マネージできる程度の借金ならサラリーマンだれしも身に覚えのある事柄だが、女の方が一筋縄でいかず、会社に・家庭に押し寄せてくるとなったら男はどうするのか。
清張さんの写真の腕は相当なものだが、書も流麗だ。きっと密かにどこかで習ったものに違いない。
秘密めいた書道教授の屋敷、密かに訪れる怪しげな人々。借金で窮地に陥った銀行員。
まずは緊迫の原作を味わった後、ジェームズ三木脚色の妙を楽しまれたい。