原題「ロッコと彼の兄弟たち」という如く、これこそ家族の肖像を描いた作品でもある。ロッコ(アラン・ドロン)の他の兄弟は、ヴィンチェンツォ、シモーネ、チーロ、ルーカ。そして、映画はこの5人の兄弟に対応して5章からなっている。1章1章はかなり時間も長く、じっくりと描かれていく。何しろ全長177分。イタリア南部の田舎から未亡人となったロザリア・パロンティは、4人の息子を連れて、ミラノの長男ヴィンチェンツォの所へやってくる。彼が家族を迎えに行かなかったのは、ジネッタ(クラウディア・カルディナーレ)との婚約式をやっていたからだった。ところが、ここで婚約者同士の母親がケンカしてしまい、長男含む彼ら6人は早速路頭に迷うことに…。
ヴィンチェンツォがかつてやっていたボクシング・ジムに行った次男シモーネと三男ロッコは、まずシモーネが認められてボクサー・デビュー。めきめき頭角を現していくが、娼婦ナディア(アニー・ジラルド)と恋に落ち(といっても、ナディアはクールだったが)、シモーネは堕落した生活を送るようになっていく。長男はジネッタと結婚、ロッコは兵役に就き、四男チーロはアルファ・ロメオの技師となり、五男ルーカは…まだママと居る。ロッコは赴任先でナディアと再会、恋に落ちる。ロッコは兄弟3人目のボクサーとなるが、シモーネはナディアをロッコから奪い返すために彼女をロッコの目の前で犯す。それでも、ロッコは兄を許し、今度こそ本格的なチャンピオンとなってゆく。“人間のクズ”となり果てたシモーネはさらなる自堕落に身を沈めて行き、ナディアからも見捨てられる。そのナディアから罵倒されたシモーネは彼女をナイフで滅多突きにして殺害してしまう。
何ということだろう?シモーネの悪魔ぶりとロッコの聖人ぶりがあまりに対照的なこの作品は、単に地方の格差を描こうとしたネオ・リアリズモとは一線を画した、まさに神話的、あるいはヴィスコンティも狙ったという、ドストエフスキーの「白痴」的な世界を描こうとしているようだ。つまり、人間というもののギリギリの正体―それは、遠心的にせよ、求心的にせよ、人は自分のことさえ救うことができないということ。それにもかかわらず、人をも救おうとしてしまうということ。ではないだろうか?何ともやるせないテーマを大都会を舞台に描いた、今観ても充分に新しい作品であるといえる。女優陣では、四男チーロの婚約者役のアレッサンドラ・パナーロが印象的だった。