悲しい歌、楽しい歌、いろいろ入っている。でも、10曲全体の感じに統一感があって、ただ一人の人が異なる状況に置かれて決意したり悲しんだり祈ったり歓喜したりする、パラレルワールドを見ている印象だ。作詞は「ココロ」が田中理恵さん、他の9曲は全てYukari Katoさんで、よく相談されて作り上げたのだろう。これが2010年の理恵さんの世界なのか? 上手いし、聞いていて快いけれど、何よりも稀少で素晴らしいと思えるのは「真剣さ」が感じられるアルバムだという点だ。
「Let it be」:ハイテンポで賑やかながら、ぐちゃぐちゃ悩む心にけりをつけて明日へ、「理屈の先にある世界」へ逃げないで向かう歌。理恵さんの透明ながら力ある声が合っている。
「Dilemma」:誰もが自分について考え込んでしまう時がある。でも諦めないで「光の指す方へ」二人で歩きだそうという、二人の、あるいは自問自答の掛け合いソング。
「in or out?」:最初籠っていた音がクリアに変わる。Inに留まらないで、願う通りにoutへ。でもそれはあくまでも自分次第。ある意味とても厳しい歌だ。
「月とダンス」:今持つものを失うことを恐れず、心のままに遥かな夢に手を伸ばす。そんなあなたの行方を、落ち着いた旋律に乗って理恵さんが祈ってくれている。どんな永遠の愛のドラマのエンディングソングだろう。
「SUPERMAN」:一転賑やかな踊りたくなる曲。ストレートに最愛の君へ力強く呼びかける。
「人魚姫の涙」:しっとりとしたアンデルセンの人魚姫の歌。大切なものを賭けて誓った愛。でも今や失われそうな愛を忘れないでと歌いあげるところが切ない。青い海の底の光が見え、波の音が聞こえる。
「FRAME」:またまた楽しく幸せなメロディ。恋人の写真を撮る瞬間に愛を確信したという歌。「フレイム越しに見る君の笑顔、フレイムアウトした先の未来」って良い歌詞だ。
「ココロ」:RPGの旅する戦士ヒロインがゲームの中で失った友を悼む歌なのか? ゲーム好きな理恵さんらしい言葉が多い。ゲームすることの喜びも溢れている。
「空飛ぶピエロ」:弾けて楽しそうな声も好きだ。観客の声も入ってライブのスタートかフィナーレような感じに作ってある。
「Orange」:温かな人ととの出逢いに感謝し、自分の弱さも嘘も認めて、それでも一緒に歩き出す。ここまでの歌の全てを飲み込んで、「現実世界を生きていく私です。」というメッセージか?
ライナーノートの歌詞が最初の2節だけ歌と違う。
「雨音さえ泣き止むのに 心はまだぐずったままで一人 傘をさし続けて
まだ青くてナイフじゃ切れない 開かない実に日の光を 君はくれたね」
と歌っている。
CD、ジャケット、ライナーノート、そしてミニ写真集では、理恵さんがいろいろなドレスをまとい、髪飾りを付け、帽子をかぶって、全部で9着、異なるポーズを数えると29枚の写真(限定版カバーの表裏3ショットは繰り返しなので除く)に写っている。笑った顔、沈んだ表情、真剣なまなざし、思いにふける視線。「歌を聞くのだ」と主張する人にもきっとお気に入りのショットがあるだろう。
楽曲の「真剣さ」の感覚からすると、単なる「おまけ」なのかもしれないが。