『ローリング・サンダー』(Rolling Thunder)('77)
出演∶ウィリアム・ディヴェイン、トミー・リー・ジョーンズ、リンダ・ヘインズ、ジェームズ・ベスト、ダブニー・コールマン、リサ・リチャーズ、ルーク・アスキュー、ローラソン・ドリスコル、ジェームズ・ヴィクター、キャシー・イェーツ、ジョーダン・ガーラー
監督:ジョン・フリン
1970〜80年代のアメリカ映画には、娯楽作·シリアス作問わず、"ベトナム戦争後遺症映画"というジャンル(?)があったと思う。ベトナムで傷ついた体や病んだ精神を抱え、元の日常に完全復帰できない帰還兵たちを(主役·脇役問わず)登場させずには、この時代の"現代ドラマ"は作れなかったのだろう。
復員後、不眠症に悩まされ、狂気をはらんだ暴力に走る『タクシードライバー』の主人公。戦場で片腕·両脚を失ったり、捕虜生活で異常を来たしたり、自殺的賭博やドラッグに走ったりする男たちの友情とその後を描く『ディア·ハンター』。捕虜生活に耐えた末に売国奴扱いされ、祖国アメリカを恨むベトナム帰還兵が、中東のテロ組織の反米テロに加担する『ブラック·サンデー』など枚挙にいとまがない。
元特殊部隊員が主人公の『ランボー』シリーズや、『地獄のヒーロー』シリーズなどの娯楽アクション路線も含めると、かなり多くの本数作られていると思う。(ジェーン·フォンダの『帰郷』、トム·クルーズの『7月4日に生まれて』などシリアス路線の良作も多々あるのだが……)
この『ローリング·サンダー』は、娯楽アクション系に入ると思うが、"醒めたリアリティ"も併せ持つ。7年の捕虜生活の末、8年ぶりに帰郷した将校と下士官の二人が、元の刺激のない平凡な日常に馴染むことができず、また彼らのいない日常に慣れてしまった家族や友人たちも受け入れ方が分からずにいる……そのギクシャクした空気感が、淡々とした中にも説得力のあるタッチで描かれ、クライマックスの凄絶アクションへの導火線となる……。
[物語] 1973年、空軍将校レーン少佐(ディヴェイン)と部下のヴォーデン伍長(ジョーンズ)らは、ベトナム戦争から8年ぶりに故郷テキサスの小さな町へと帰還する。街を挙げての盛大なセレモニーで歓迎された"英雄たち"。家族や友人たちも温かく迎えてくれた。だが、7年間の捕虜生活でトラウマを負ったレーンらの心は、地元の熱狂と反比例するように冷めきってゆく……。
レーンの生還を絶望視していた妻ジャネット(リチャーズ)は、夫の不在中親身に接してくれた保安官クリフ(ドリスコル)と深い仲になっており、父の顔も覚えていない息子マーク(ガーラー)は、クリフに懐いていた。誰が悪いわけでもない……故郷に居場所を見出だせないレーンの心にあるのは、諦観と無気力さだけだった。
そんなある日、レーンが歓迎式典で授与された大量の銀貨を狙う強盗団が家に押し入る。捕虜収容所の拷問にも耐えたレーンは、右腕をディスポーザーで潰されても銀貨のある場所を教えない。だが、そこへ妻子が帰宅して情勢は一変。銀貨を盗られたうえ、妻子は射殺されてしまい、レーンだけが一命を取り留める。
地元の英雄レーンのファンと称し、何かと世話を焼いてくれる酒場女リンダ(ヘインズ)や盟友ウォーデン伍長の助けで、リハビリと義手の訓練に励むレーン。強盗たちの顔と呼称などの手がかりを脳裏に刻んだレーンは、警察には「何も覚えていない」と言い、自分の手で復讐することを誓って、武器の準備などを着々と進める。
献身的な協力者リンダを伴ったレーンは、強盗たちの根城があるはずのメキシコへ。関係のありそうな無法者たちを締め上げながら、強盗団の所在に迫ってゆくレーン。これ以上は警察に任せるべきと主張するリンダを尻目に、強盗団のアジトを摑んだレーン少佐は、相棒ウォーデン伍長の家を訪ねる。父や妻、妹夫婦らとの生活に馴染めないでいた伍長は、強盗団の所在を聞くや「すぐに支度します」と軍服を着込み、戦闘準備を開始する……。
この映画、決して映画史に残る大傑作というわけではないが、比較的低予算のB級規模作品としては大ヒットで、後世の映画人や作品にも影響を与えるほどのインパクトはあったようだ。当時、話題になったバイオレンス·アクションは、今となっては騒ぐほどのものではないが、マーティン·スコセッシ監督の『タクシードライバー』や、ブライアン·デ·パルマ監督の『愛のメモリー』で売り出したポール·シュレイダーの熱いようでクールな脚本がいい。
熱くて痛快で、スカッとする復讐劇ではない。主人公レーンとウォーデンの表向きの目的は"復讐"だが、彼らが求めていたのは、生きていることを実感できる"戦場"であり、殺すか殺されるかの闘いだろう。スティーヴ·マックィーン主演のドキュメンタリー風レース映画の傑作『栄光のル·マン』を思い出す。主人公のレーサーに「レース場を走っているときだけが真の"人生"。それ以外は"待機"の時間だ」という意味のセリフがあったが、どこか重なるような……。
[余談] 脚本のポール·シュレイダーのデビュー作は、兄レナードとの共作『ザ·ヤクザ』('74·ロバート·ミッチャム、高倉健主演)。兄レナード·シュレイダーは、同志社大学·京都大学で教鞭を執った人で、日本語でも脚本が書けるとのこと。兄弟揃って大の親日家らしい。兄レナードは『男はつらいよ 寅次郎春の夢』('79)、『太陽を盗んだ男』('79)、『ションベン·ライダー』('83)などの日本映画の脚本を手掛けたほか『蜘蛛女のキス』('85)では、アカデミー賞にノミネートされたそうだ。
[余談②] 封切り当時に、主演のウィリアム·ディヴェインは、
ABCテレビのドキュメンタリー·ドラマ『10月のミサイル(The Missiles of October)』('74)("キューバ危機"がテーマの実話ドラマ)で主役のケネディ大統領を演じた俳優として知っていた。その時の知的なイメージと、復讐鬼となって悪人どもを殺しまくる『ローリング·サンダー』のレーン少佐とのギャップが意外で、妙にワクワクしたのを覚えている。(残念ながら『10月の〜』の日本版DVDは発売されてないようだ)