The New PornographersのDan Bejar氏によるソロ・プロジェクト、Destroyerのアルバムです。か細く不安定なボーカルと甘美なメロディーの絶妙な味わい、ディスコ風シンセビートとジャジーなサックスの融合など、大人の切ない陶酔とほろ苦い喪失とが同居したAORサウンドは、懐かしいのに新しいという奇妙な感覚を引き起こします。さらに、自然なようで不自然、純粋なのかひねくれているのか、真面目にやってるのかふざけてるのかわからない、独特の「つかめなさ」は本作最大の特徴であり魅力であると思います。聴きこむうちにどんどんクセになり、発売当初から現在まで、私の愛聴盤として重要な位置を占めている不思議な作品です。
イントロの旋律から既に眩暈を感じそうな<#1 Chinatown>、インディーファン以外の心も鷲掴みにするであろうキャッチーな<#2 Blue Eyes>、シンセやギターの手触りなどNew Orderを彷彿とさせる<#3 Savage Night at the Opera>、儚げなギター&フルートの導入部から勇ましいトランペットが乱れ飛ぶ終盤まで見事な構成の<#4 Suicide Demo for Kara Walker>、優雅なホーンが印象的なリラックスしたムードの<#5 Poor in Love>、80年代への愛と幻想に満ちた代表曲<#6 Kaputt>、繁華街での孤独と混乱が見え隠れする<#7 Downtown>、ポジティブなビートに乗せ美しくも辛辣な詞を歌う<#8 Song for America>、奇妙で危ういバランス感覚のまま言葉が溢れだしてゆく大作<#9 Bay of Pigs (Detail)>と、全曲すばらしい。