■ はじめに
◆ 登場人物(キャスト)
Mr.ディートリクスン(トム・パワーズ) 会社経営者
フィリス・ディートリクスン(バーバラ・スタンウィック) ディートリクスンの妻
ウォルター・ネフ(フレッド・マクマレイ) 保険外交員
バートン・キーズ(エドワード・G・ロビンソン) 保険調査員
ジャクソン(ポーター・ホール) 列車の中で会う男
■ あらすじ
保険外交員のウォルターは、ディートリクスンの自動車保険の期限が間近なので契約更新のために訪問した。
本人は不在で、妻のフィリスが応対した。フィリスは自動車保険とは関係がない障害保険の話を話を持ち出した。保険金は自分が払うという。フィリスの悪意は明らかである。ウォルターは話を断った。
しかし再度フィリスと会い惹かれた。次第に歯車が回り始めた。そしてブレーキがきかなくなった。
倍額支払い特約付きの傷害保険が契約された。
ディートリクスンがパロアルトに行く機会を利用して事故死を装う。
先にディートリクスンを殺し、フィリスが車で運んでいく。ウォルターは変装して列車に乗り込む。
途中で転落を装って飛び降りる。フィリスが運んできたディートリクスンの死体を線路に置く。
ウォルターのアリバイ工作もしており、それは大丈夫である。だがしかし列車の中で声をかけられて話をした。
のちほど保険調査員のバートン・キーズが列車の中で会った人物を連れてくる。また契約後すぐに事故になったことも疑われた。
それに転落ではなく自殺であれば保険金は支払われない。
キーズは専門家の調査員だけあって、いろいろと疑ってくる。二人が思った通りには進まない。
ついにウォルターはすべてに決着をつける覚悟をしてフィリスに会いに行く。そしてフィリスは拳銃を用意してウォルターを待った。
■ 感想
我らのバーバラ・スタンウィックが最初から最後まで、いかにも悪女という雰囲気である。大拍手。
それに対してバートン・キーズがなかなか鋭い。二人の陰謀がばれてしまわないか、見ている方がハラハラする。
■ 出演者
◆ フレッド・マクマレイ
(1940)思い出のクリスマス/Remember the Night。本作のバーバラ・スタンウィックと共演。窃盗常習犯のリー(バーバラ)は捕まって裁判。クリスマスで裁判が延期となり保釈。担当検事のジョン(フレッド)と故郷が同じと判明し、二人は車でインディアナに向かった。
ジョンの家ではリーは暖かく迎えられたが、ジョンの経歴を傷つけないようにとジョンの母親から警告された。裁判が再開されて、リーは有罪を望み、検事のジョンは無罪を目指した。
(1960)アパートの鍵貸します/The Apartment。共演はジャック・レモン、シャーリー・マクレーンなど。バド(ジャック)は上役に愛人との密会場所として自分のアパートを時間貸ししている。出世のためである。
ひょんなことで自分の好きなフラン(シャーリー)が上役(フレッド)の一人の相手であることが判明した。フランがバドの部屋で睡眠薬自殺を図るに及んで、バドは上役に「フランと結婚する」と言いに行ったが...。
◆ エドワード・G・ロビンソン
(1944)飾窓の女/The Woman in the Window。共演はジョーン・ベネットなど。リチャード(エドワード)はショウウィンドウに飾られた肖像画を見ていたところ、肖像画のモデルの女性が現れた。アリス(ジョーン)。
意気投合して飲みに行き、さらにアリスのアパートに行った。しかしその部屋に男が乱入してきて二人に殴りかかった。リチャードはアリスから渡されたハサミで、その男を殺した。
(1945)緋色の街 スカーレット・ストリート/Scarlet Street。共演はジョーン・ベネット、ダン・デュリエなど。クリスは勤続25周年を祝ってもらった日、男に暴力を振るわれている女性キティ(ジョーン)を助けた。
その後クリスはキティのためにアパートを借りた。費用は妻アデルの元の夫の保険金である。しかしキティはクリスのことをなんとも思っておらず、ある日クリスはキティの情夫を目撃した。
◆ バーバラ・スタンウィック
出演作が多く、善人から悪人、コメディなんでもこなす俳優である。私が知っている限りでは、このような幅広い俳優はキャスリーン・ターナーのみ。またバーバラは共演者やスタッフの評判も良かったようである。好きなのは「マーサの奇妙な愛情」「クリスマス・イン・コネチカット」。
寄り道だがキャスリーン・ターナーのタイトルのみ。
1981/白いドレスの女/Body Heat。保険金殺人。下の紹介を参照。1985/女と男の名誉/Prizzi's Honorでは殺し屋。1991/私がウォシャウスキー/V.I. Warshawskiでは私立探偵。
1994/シリアル・ママ/Serial Momでは主婦が連続殺人。1993/アンダーカバー・ブルース/子連れスパイ危機一髪/Undercover Bluesではスパイ、ただしコメディ。1997/シンプル・ウィッシュ/A Simple Wishでは魔女、こちらもコメディ。
マイケル・ダグラスとの共演が三作。1984/ロマンシング・ストーン 秘宝の谷/Romancing the Stoneと1985/ナイルの宝石/The Jewel of the Nileは宝石探しの冒険。1989/ローズ家の戦争/The War of the Rosesでは双方が死ぬまで夫婦喧嘩。
夫の浮気に悩むものは、1986/ペギー・スーの結婚/Peggy Sue Got Marriedと1988/偶然の旅行者/The Accidental Tourist。
1993/心の扉/House of Cardsでは自閉症児の母親。1988/スイッチング・チャンネル/Switching Channels。テレヴィ・レポーターで殺人犯人死刑囚の特赦に駆け回る。1999/ベイビー・トーキング/Baby Geniusesでは悪徳教育者。
ここでキャスリーン・ターナーは終了。
(1937)ステラ・ダラス/Stella Dallas。共演はジョン・ボールズ、アン・シャーリー、バーバラ・オニールなど。ステラ(バーバラ)はスティーヴン(ジョン)と結婚しローレル(アン)が生まれた。スティーヴンはニューヨークに転勤になり、二人は別居しローレルはステラと暮らした。
スティーヴンは時々戻ってきて、ローレルは時々父親に会いに行った。ローレルは父親も母親も大好きだった。スティーヴンは昔の婚約者のヘレン(バーバラ)と偶然再会した。ローレルはヘレンも好きになった。ヘレンの長男の友達と恋人になった。
ステラは自分の性格や出自がローレルの結婚にとって悪影響であることを認識し、離婚してスティーヴンとヘレンに親になってもらおうとヘレンに願い出た。しかし事情を知ったローレルは、この案を拒否してステラの元に帰った。(ローレルのことを思って)ステラは戻ってきたローレルに冷たい仕打ちをした。
(1941)群衆/Meet John Doe。共演はゲイリー・クーパー。新聞記者のアン・ミッチェル(バーバラ)は解雇された腹いせに、失業した架空の人物ジョン・ドゥーをでっち上げて「クリスマスイヴに市庁舎から飛び降り自殺する」との最後の記事を書いた。
その記事が大きな反響を呼んでアンの解雇は撤回された。アンは続編を書き続けた。そしてジョン・ウィラビー(ゲイリー)という男性を探し出して、ジョン・ドゥーとして売り出した。さらに大騒動が続いた。
(1945)クリスマス・イン・コネチカット/Christmas in Connecticut。共演はデニス・モーガン。エリザベス(バーバラ)はコネチカットに家族と住んでいる料理研究家。多くの女性読者の模範である。じつは嘘。ニューヨークに住んでいる独身。料理もできない。
雑誌の読者参加企画があり、しかたなく以前からプロポーズされている建築家と結婚することになる。建築家のコネチカットの別荘に出かける。
企画に参加する帰還兵(デニス)が到着する。出版社の社長も来る。建築家と結婚式をしようとするが、何かとトラブルがあり、結婚式ができない。もたもたしているうちに帰還兵を好きになる。
(1946)呪いの血/マーサの奇妙な愛情/The Strange Love of Martha Ivers。共演はヴァン・ヘフリン、カーク・ダグラス。まだ子供時代。マーサ(バーバラ)は大金持ちのオバと暮らしている。サム(ヴァン)とウォルター(カーク)という少年。
偶然のことからマーサはオバを殺害。サムはその事件を知らずに遠くに行く。マーサはサムが好きで一緒に行きたかった。
マーサとウォルターは結婚しウォルターは検事になった。そして「オバ殺しの真犯人」が見つかり死刑になる。
サムが戻ってくる。事件の真相を調べてマーサを脅迫する。しかしマーサはまだサムが好きで、サムと一緒になろうとする。
(1947)いのち短かし/The Other Love。共演はデイヴィッド・ニーヴン、リチャード・コンテ。ピアニストのカレン(バーバラ)は結核になりスイスの療養所に入った。カレンには正確な病状は知らされなかった。
しばらくしてカレンは医師のトニー(デイヴィッド)に反発して町に出かけた。レーサーのポール(リチャード)と親しくなった。しかしポールはカレンの病気を知らない。
(1948)私は殺される/Sorry, Wrong Number。共演はバート・ランカスター。レオナ(バーバラ)は社長の娘、夫ヘンリー(バート)はレオナと結婚して役職に就いたが、自分の実力でないのが不満。それで不正に手を染める。
レオナは体が悪く、ほぼベッドの上で生活している。レオナに混線電話がかかってくる。誰かの殺害指示の電話。調べていくと、ヘンリーが不正をしていること、そして殺害のターゲットが自分であることが判明する。
(1957)四十挺の拳銃/Forty Guns。40人の手下を使って町を支配している女ボス。保安官も含めてすべてジェシカ・ドルモンド(バーバラ)の配下。ここにグリフ・ボーネル(バリー・サリヴァン)とウェス・ボーネル(ジーン・バリー)が赴任してくる。
◆ 保険金詐欺が完全成功する映画
「このような映画は作ってはいけない」というのは正論だが、実際にはある。
(1981)白いドレスの女/Body Heat。出演はキャスリーン・ターナー、ウィリアム・ハート。弁護士のネッド・ラシーン(ウィリアム)はマティ・ウォーカー(キャスリーン)と知り合いになり深い仲となった。二人はマティの夫の殺害を企てた。実行犯はネッド。
実行後二人はボートハウスで会うが、その時にマティは爆死する。夫の殺害時のアリバイは巧妙に崩されており、ネッドは二人の殺害犯として有罪、服役。
刑務所の中でマティの高校の卒業アルバムを取り寄せると、マティは別人である。ラストはマティ(?)がリゾート地で保養している。
(1992)愛という名の疑惑/Final Analysis。出演はキム・ベイシンガー、ユマ・サーマン、リチャード・ギア。
精神分析医アイザック(リチャード)は患者ダイアナ(ユマ)の姉ヘザー(キム)と会って、次第に深い関係となった。二人で灯台に行った時、ヘザーはバッグを落としダンベル棒が転がり出た。「護身用なの」。アイザックはそれを拾い上げてヘザーのバッグに入れた。
アイザックがヘザーを送っていった夜にヘザーは手袋をして夫ををダンベルで殴り殺した。裁判ではアイザックが証言してヘザーは病的酩酊症で無罪。しかし八週間の入院。
ヘザーの病気が偽装であることを掴んだが、ヘザーは「指紋がついたダンベル棒があるのよ」と逆に脅す。
その後アイザックは元犯罪者を使ってダンベル棒を盗む。ヘザーはダイアナと病院のトイレで入れ替わり、ダンベル棒を奪い返し、アイザックを追い詰めるが転落死。
ダイアナは病院から出て来て、ヘザーの夫の保険金をせしめる。
(1999)グッバイ・ラバー/Goobye Lover。出演はパトリシア・アークエット、ダーモット・マローニー、ドン・ジョンソン、メアリー=ルイーズ・パーカー、エレン・デジェネレス。
サンドラ(パトリシア)は夫のジェイク(ダーモット)と一緒にジェイクの兄のベン(ドン)を殺した。保険金目当てである。しかしベンの秘書のペギー(メアリー=ルイーズ)が「ベンと結婚している」と言い出した。
二人は殺し屋にペギーの殺害を依頼した。しかしジェイクは再度殺し屋を訪ねて「妻を殺してくれ」と依頼内容を変更した。サンドラはジェイクとペギーの行動を怪しんで二人を尾行し、バイクで走っている二人を崖下に落とした。
これで遺産はサンドラのものとなった。だが事実を掴んだ刑事のリタ・ポンパノ(エレン)に半分を脅し取られた。
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フォーマット | ブラック&ホワイト, 字幕付き |
コントリビュータ | フレッド・マクマレイ, ビリー・ワイルダー, エドワード・G・ロビンソン |
稼働時間 | 1 時間 46 分 |
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商品の説明
深夜のロサンゼルス。フルスピードで走ってきた車がパ シフィック保険会社の前で止まり、肩をピストルで射ぬかれた勧誘員ウォ ルター・ネフがよろめきながら下りてきた。彼は会社の自室に入り、テー プレコーダーに向かって上役バートン・キースに宛てた口述を始めた。数カ 月前、ウォルターは会社に自動車保険をかけているディートリチスンを訪 ねたが不在で、夫人のフィリスに会った。翌日フィリスはウォルターのア パートを訪れ、夫を殺してそれを事故死と見せ、倍額保険を取ろうともちかけた。 足を怪我したディートリチスンは、近く開かれるスタンフォード大学の同窓会へ汽 車で行く予定だった。最初は当惑するウォルターも、フィリスの肉体の魅力に負けて、 ついに計画を手伝う破目になった。保険に入ろうとしないディートリチス ンからサインを詐取して保険証書を作った2人は、犯行当夜のアリバイを作って実行 に入るのだが…
登録情報
- メーカーにより製造中止になりました : いいえ
- 梱包サイズ : 18.03 x 13.76 x 1.48 cm; 83.16 g
- EAN : 4571339482677
- 監督 : ビリー・ワイルダー
- メディア形式 : ブラック&ホワイト, 字幕付き
- 時間 : 1 時間 46 分
- 発売日 : 2011/2/15
- 出演 : フレッド・マクマレイ, エドワード・G・ロビンソン
- 販売元 : ファーストトレーディング
- ASIN : B004NXMEJA
- ディスク枚数 : 1
- Amazon 売れ筋ランキング: - 54,208位DVD (DVDの売れ筋ランキングを見る)
- - 1,864位外国のミステリー・サスペンス映画
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2022年3月6日に日本でレビュー済み
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2024年2月23日に日本でレビュー済み
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1944年に製作されたビリー・ワイルダーの犯罪サスペン映画で、渡米後、第3作目の監督作品。原作は「郵便配達は二度ベルを鳴らす」などの著書があるジェームズ・M・ケインの”Double Indemnity”。(倍額補償、二重免債の意味もある)脚本はワイルダーと当時無名に近かったレイモンド・チャンドラー。
夜のロサンジェルス、車を疾走させ、犯罪現場から自分の会社に戻ってきたらしい主人公が、自分の犯した罪を録音機を使って告白するところから始まる。自白先は彼の上司キーズ(エドワード・G・ロビンソン)で、左肩に傷を負ってかなりくたびれた男は、ウォルター・ネフ、保険セールスマンと名乗り、犯人は自分だという。それから回想場面(本編)となる。「スイカズラの香る5月の終わり頃、自動車保険の更新を思い出した」とモノローグがかぶさり、ネフがディドリクソン氏のスペイン風邸宅を訪ねるところから始まる。この室内場面は、二階で日光浴をしていたという夫人と、ブラインドの間から日が差し込む「よどんだ空気と葉巻の匂いのする居間」との対比、後妻でお妾さん的境遇を象徴したかのような金魚鉢など、モノローグと室内セットとの組み合わせで、歪な家庭を思い起させる情景を表現している。
また、現在進行形のもはや失うものはない男の淡々と語る冷めたモノローグと、過去の生き生きとした情景との塩梅がよく、ネフが初めて女を見上げる眼の輝きと、今録音中の精魂尽き果てたかのような姿との対照はその一例である。
有能な保険セールスマンである主人公は、顧客の態度を見て押したり引いたりする仕事である。女の企みは見え見えの筈である。しかし、女の手練手管によって誘惑されてしまう。そのような微妙な心の内、変わり様が、緩急をつけた場面の流れの中で巧みに織り込まれていて、見ごたえがある。
「マルタの鷹」(1940)のハンフリー・ボガートの影響か、主人公のしゃべりは早口であまり感情を出さない。そこもまた一種のハードボイルド的雰囲気を醸し出している要因のひとつとなっている。一方、キーズ役のエドワード・G・ロビンソンもまた早口だけれども、始終大声で怒鳴りちらす芝居気たっぷりなしゃべりは対照的で、全体の流れの中でメリハリを効かせている。
主人公と女がスーパーの缶詰売り場で偶然を装って出会う場面は、ワイルダーが脚本を書いた「青髭八人目の妻」(1938)の冒頭シーンを思い出すけれども、不倫カップルの不器用な密会場面みたいでちょっと愉快だった。
主人公ネフ役の選定にあたっては、イメージが傷つくといって軒並み他の役者から断られ、明朗な役で人気のあったフレッド・マクマレーも、初めは断ったものの最終的には渋々受け入れたという。共演のバーバラ・スタンウィックとエドワード・G・ロビンソンが芸達者なのに対し、マクマレーは多分監督の演技指導なのであろうが、あまり演技らしさを感じさせず、自然体で通している。そこが作品の雰囲気に合っていていい。図らずも、これがマクマレーの代表作のひとつとなった。
小さい男が背の高い男を倒すように、先行きのことは思いがけない方向に転がるものである。
以上、これから観る方の興を冷ますことになるで、本筋とあまり関係のないことを書いてみました。
夜のロサンジェルス、車を疾走させ、犯罪現場から自分の会社に戻ってきたらしい主人公が、自分の犯した罪を録音機を使って告白するところから始まる。自白先は彼の上司キーズ(エドワード・G・ロビンソン)で、左肩に傷を負ってかなりくたびれた男は、ウォルター・ネフ、保険セールスマンと名乗り、犯人は自分だという。それから回想場面(本編)となる。「スイカズラの香る5月の終わり頃、自動車保険の更新を思い出した」とモノローグがかぶさり、ネフがディドリクソン氏のスペイン風邸宅を訪ねるところから始まる。この室内場面は、二階で日光浴をしていたという夫人と、ブラインドの間から日が差し込む「よどんだ空気と葉巻の匂いのする居間」との対比、後妻でお妾さん的境遇を象徴したかのような金魚鉢など、モノローグと室内セットとの組み合わせで、歪な家庭を思い起させる情景を表現している。
また、現在進行形のもはや失うものはない男の淡々と語る冷めたモノローグと、過去の生き生きとした情景との塩梅がよく、ネフが初めて女を見上げる眼の輝きと、今録音中の精魂尽き果てたかのような姿との対照はその一例である。
有能な保険セールスマンである主人公は、顧客の態度を見て押したり引いたりする仕事である。女の企みは見え見えの筈である。しかし、女の手練手管によって誘惑されてしまう。そのような微妙な心の内、変わり様が、緩急をつけた場面の流れの中で巧みに織り込まれていて、見ごたえがある。
「マルタの鷹」(1940)のハンフリー・ボガートの影響か、主人公のしゃべりは早口であまり感情を出さない。そこもまた一種のハードボイルド的雰囲気を醸し出している要因のひとつとなっている。一方、キーズ役のエドワード・G・ロビンソンもまた早口だけれども、始終大声で怒鳴りちらす芝居気たっぷりなしゃべりは対照的で、全体の流れの中でメリハリを効かせている。
主人公と女がスーパーの缶詰売り場で偶然を装って出会う場面は、ワイルダーが脚本を書いた「青髭八人目の妻」(1938)の冒頭シーンを思い出すけれども、不倫カップルの不器用な密会場面みたいでちょっと愉快だった。
主人公ネフ役の選定にあたっては、イメージが傷つくといって軒並み他の役者から断られ、明朗な役で人気のあったフレッド・マクマレーも、初めは断ったものの最終的には渋々受け入れたという。共演のバーバラ・スタンウィックとエドワード・G・ロビンソンが芸達者なのに対し、マクマレーは多分監督の演技指導なのであろうが、あまり演技らしさを感じさせず、自然体で通している。そこが作品の雰囲気に合っていていい。図らずも、これがマクマレーの代表作のひとつとなった。
小さい男が背の高い男を倒すように、先行きのことは思いがけない方向に転がるものである。
以上、これから観る方の興を冷ますことになるで、本筋とあまり関係のないことを書いてみました。
2023年3月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ビリー・ワイルダー監督作品ということで鑑賞した。
結果、面白いサスペンスだった。ただ、倒叙物なので犯人を推理する楽しみはない。
その代わりに、少し意外な展開になっていくので観る価値はある。
主人公のネフ役フレッド・マクマレイはコメディ「アパートの鍵貸します」に主人公の上司として登場する身勝手な上司役の俳優だ。
結構いい男で、日本で言うとさしずめ加山雄三というところか。
相手役のバーバラ・スタンウィックは絵に描いたような美女だが、妙に色っぽくはなく、映画の雰囲気を壊していない。
探偵役にネフの仕事仲間を持ってくるところが秀逸だ。少しだけ真実に遠ざかってはいたが、最後にはほぼ見破っている。この設定は上手いと思う。
殺人の段取りも、少し古典的ではあるが、時代性から見て仕方がないだろう。
星5つとはしたが、今日の基準で考えると少し展開がゆっくりだ。と言って、無駄なシーンがあるわけではなく、気になる矛盾もほとんど無い。
自分自身はこの映画を知らなかったが、監督から辿っていって知った。しかし、知る人ぞ知る映画らしい。
結果、面白いサスペンスだった。ただ、倒叙物なので犯人を推理する楽しみはない。
その代わりに、少し意外な展開になっていくので観る価値はある。
主人公のネフ役フレッド・マクマレイはコメディ「アパートの鍵貸します」に主人公の上司として登場する身勝手な上司役の俳優だ。
結構いい男で、日本で言うとさしずめ加山雄三というところか。
相手役のバーバラ・スタンウィックは絵に描いたような美女だが、妙に色っぽくはなく、映画の雰囲気を壊していない。
探偵役にネフの仕事仲間を持ってくるところが秀逸だ。少しだけ真実に遠ざかってはいたが、最後にはほぼ見破っている。この設定は上手いと思う。
殺人の段取りも、少し古典的ではあるが、時代性から見て仕方がないだろう。
星5つとはしたが、今日の基準で考えると少し展開がゆっくりだ。と言って、無駄なシーンがあるわけではなく、気になる矛盾もほとんど無い。
自分自身はこの映画を知らなかったが、監督から辿っていって知った。しかし、知る人ぞ知る映画らしい。
2021年11月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
初めに主人公のラストシーンが映し出され、主人公の回想によってそこに至る経緯が少しずつ分かってくるというスタイルで構成されています。このような構成の映画は今は珍しくありませんが当時は珍しかったのではないかと思います。
保険金詐欺を目論む殺人の物語ですが、犯人は先に分かってしまうので、どうして殺人をすることになったのか、なぜ自白しないといけなかったのかに興味を持ちつつ、観る人を物語に引き込ませるところは上手いなと思いました。
最後まで掴みどころのなかったフィリスや、一度変だと思ったらとことん調査するキーズなど登場人物も魅力的で、フィリスとネフの愛情とキーズとネフの友情の変遷も見どころでした。
保険金詐欺を目論む殺人の物語ですが、犯人は先に分かってしまうので、どうして殺人をすることになったのか、なぜ自白しないといけなかったのかに興味を持ちつつ、観る人を物語に引き込ませるところは上手いなと思いました。
最後まで掴みどころのなかったフィリスや、一度変だと思ったらとことん調査するキーズなど登場人物も魅力的で、フィリスとネフの愛情とキーズとネフの友情の変遷も見どころでした。
2020年6月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
高評価のビリー・ワイルダー監督作品「サンセット大通り」「情婦」「アパートの鍵貸します」「シャーロック・ホームズの冒険」は個人的にはもう一度視たいとまで思えなかったが、本作「深夜の告白(Double Indemnity 倍額保障特約)」は惹き込まれ感あり。ベテラン保険営業マンが計画した完全犯罪。飛び降りのあの手法は素人目にもほころびると分かった。