2002年録音。12年録音の「前奏曲集」に感動したので購入。購入して録音日を見てびっくり。「前奏曲集」より10年前の録音なのに、エマールのピアノは、「前奏曲集」で聴かせた「音の響き」のこだわりに満ちあふれた演奏だったから。
「映像」は、ミケランジェリの万華鏡を思わす音色の変化。「練習曲集」は、ポリーニの強靱なタッチとテクニックで緊張感溢れた演奏が、まず私には耳に残っている。しかし、この2人の演奏は名演とは思うが、私にはあまりにも重く、強烈すぎて日常的には気楽に楽しめない。私が一番日常的にドビュッシーを楽しんでいるのは、小川典子だ。
「映像」も「練習曲集」もさりげなく美しく、優しく、柔らかく弾く小川のドビュッシーは、水彩画の淡い色彩のようで、癒しを与えてくれる。
エマールの演奏は、どちらかというと小川に近く、それでいて小川の淡彩なドビュッシーとは色彩も感性も違って独特の個性を作り出している。
肩の力を抜いた普段着でドビュッシーに接し、徹底的に「音の色と響き」にこだわって演奏している。
この人の演奏の面白いところは、テクニックや強弱にあまりこだわらないから、聴いていて疲れないのだ。
その点、ポリーニの「練習曲集」は、強烈なアタックが印象深く、疲れて仕方がなかった。
どこまでも音が続いていくような、無限旋律を思わせるようなエマールの「練習曲集」。
ワーグナーの「トリスタンとイゾルテ」を連想してならないような音の繋がり。いつまでも、聴いていたくなるような音が次ぎから次へと紡ぎ出されていく。
「映像」は、1905年から07年の作曲。「練習曲集」は、1915年の作曲だから、かなりドビュッシーとしても作風が違うのに、エマールの演奏は、1枚のCDとして、とても違和感なく収まっているのが、彼の演奏を象徴しているように思えてならなかった。