今回発売されたCDは、過去に天井桟敷や万有引力の公演の物販で発売されていたテープ版のマスター音源から新たに収録した完全版との認識で良いようです。もっともテープ版を聞いた事が無いので比較も出来ないのですが。
天井桟敷の最高傑作とされる作品のサントラですが、単独の音楽作品としてみると翌年の「身毒丸」のようなロック色が濃く、激しい合唱等が見られる音楽主体の作風とは違いBGM的な要素が強い作品になっています。
本作は一つの世界観を表現するという点において、シーザーの既存作品の中でも最高レベルの完成度を持った作品です。
天井桟敷の演劇には欠かせない新高恵子さんや蘭妖子さんの歌唱曲、クライマックスのシーザーの歌「南十字星の背理」などの曲はもちろん必聴ですが、それらの歌物も含めた舞台との調和としての音楽というのがどちらかといえば本命で、本作の意義でしょう。
もし仮に寺山演劇に興味がある人で、「奴婢訓」という作品を見たことが無い人が居たら、おそらく出版されてる戯曲を読んでみるよりもこのCDを通して聞いてみた方がよほど寺山演劇の実態に迫れるように思えます。
それと「南十字星の背理」について、これは「阿呆舟」の表題曲とも似た劇のクライマックスをシーザーの歌唱で締める天井桟敷のいくつかの戯曲で見られるタイプの曲で、この曲について知っている人の大半が南十字星を撃て!が曲名だと判断していたんじゃないかと思うのですがどうやらこちらが正しい曲名のようです。
これは舞台の場面としては南十字星を撃てという名前のシーンだけど、その時に歌う曲の名前としては南十字星の背理が正しかったのか、それとも寺山修司作詞の同名異詩で別の作曲家が作った曲が既に存在しているので今回CDという形で外部流通する時に何か問題にでもなったのか?
いずれにせよこの曲は一人寂しく死ぬ時は〜、で始まるあの曲で間違いありません。
それと関係有るのか無いのか、三人そろって死ぬ時は〜の部分の歌詞が省略されてるのですが、テープ販売の時に短縮バージョンで収録されたのか、それとも公演によって省略される時もある部分だったのか?これも実態は謎になっています。