日本を代表する女性ポップス・シンガー、岩崎宏美さんの2012年度2枚目となる最新シングル曲です。初めに私は30年以上に渡ってのさだまさしファンですので、誠に申し訳ありませんがこのレビューがどうしてもさださん寄りの内容になってしまう事をどうかお許し下さいね。さださんと岩崎さんは6歳の年齢差があるのですが、さださんが73年に21歳で岩崎さんが75年に17歳でそれぞれデビューされていますので意外にも芸歴は僅か2年しか違わないのですね。お二人の初めての共演は85年のさださんのまさしんぐワールド・コンサートのミュージカルに岩崎さんが出演されて歌った「夢」という曲で、その時にはレコード化は考えていませんでしたが16年後の2001年にシングル曲としてリリースされました。それから更に11年後の今年4月にシングル「いのちの理由」5月にアルバム「さだまさしトリビュート」をリリースされて今回10月発売の新曲で3作連続のさだ作品になります。また面白い話題としては、過去にNHKテレビ「ふたりのビッグショー」で共演された時に起きたハプニングの笑える裏話をさださんがライブアルバム「二千一夜」で語られていますし、今年きだまきしのアルバム「大変なンすからもォ。」に加山雄三さんとの漫才風の台詞が付いたデュエット曲「海といつまででも」を歌って参加されています。
『あなたへ 〜いつまでも いつでも〜』「夢」から実に27年の歳月を掛けてやっと完成したさださん渾身の一曲で、今年は勿論ここ数年の間でも最も素晴らしい名曲なんじゃないかなと思います。先日さださんのTV番組の大学生を対象にしたライブ演奏で若い女性の方がこの曲を聴いて涙ぐんでいるのを見て本当に人の心に訴えかける力を持った歌なんだなあと思い深く感動しました。ゆったりとした優しく穏やかな序盤から中盤で徐々に感情が高まって行き、そして終盤で遂に激しく心を解き放ってありったけの思いをぶつける構成が見事で、高音のサビの部分は相当に難易度が高く歌手にとっては苦戦を強いられる難所だと思いますが、宏美さんは若い頃と全く変わらない伸びやかな澄んだ歌声と抜群の歌唱力で歌い切っておられます。こんな難しい歌を敢えて持って来る所にさださんの岩崎さんへの絶対の信頼と歌に対する妥協を許さない強い姿勢を感じて、本作のある意味まるで二人の真剣勝負の様な趣が却って清々しく思えます。最後にこの歌は大ヒットはしないかも知れませんがでもそれは時の運で、稀に見る素晴らしい楽曲である事は間違いありませんので宏美さんの歌手人生後期の大切な一曲として愛着を持ってこの先もずっと歌い継いで行って頂きたいと願います。
『糸遊(かげろう)』私は普段さださんの歌を聴き慣れていますのでごく普通に感じますが、こうして宏美さんの歌声で聴くと改めてさだ独特の日本的な古風な詩とメロディーの世界を実感しますね。決して演歌ではなく「通りゃんせ」の様な唱歌・童謡に近い妖しい曲調を書ける人は今時では少なく、また一つ宏美さんの歌の世界の幅が広がったと思います。
今年はほとんどさだ一色だった岩崎さんでしたから、さすがに来年からしばらくは別の方の作品を歌われる事になるだろうなと思われますが、どうかこのご縁を大切にして頂きたいですし、さださんも長年の悲願を果たしたのですから今度はリラックスした軽やかな気持ちでシングル曲にこだわらずにアルバムの一曲でも何時かまた書いて頂いて今後もファンを楽しませて欲しいと願っています。