この作品は、ドイツ出身のボリス・イングスター監督のアメリカデビュー作品。ノワールの作品ながら、アートな感覚が前面に出てほかのノワール作品とは一線を画するような別の雰囲気を持っている。
ストーリーは、主人公の新聞記者が殺人事件の目撃証人として法廷で証言をするも、被告人が無罪を主張しながら有罪判決がくだされる。恋人が被告人の証言の迫力に有罪に対して疑問を抱き、被告人が刑に処せられることに対する責任を感じ落ち込んでいく。そんな恋人の様子から主人公も自分の証言の重さ、自分も同じような状況に置かれることが十分あり得ると考え、徐々に不安にかられていく。そんな時に、隣の部屋の男が殺され、同時にアパートにいた謎の男(ピーター・ローレ)を目撃する。その後、主人公に嫌疑がかかり恋人が犯人を見つけ出すという単純なストーリーではあるが、この作品は裁判で有罪になった被告人と同じ状況に置かれる可能性が大きいと認識し、妄想に陥るところの映像が素晴らしい。
殺していないのに隣人を殺した犯人になってしまうという悪夢を見るシーンは、全くアメリカ的な匂いがしない。監獄は、壁に映る大きな格子(大きすぎる)の影で表し、民衆の気持ちは新聞の渦で表される。そして、死刑の恐怖は電気椅子を影で描かれる。こんな映像表現は「カリガリ博士」的でグッとくる。
ピーター・ローレの謎の男はあまりに異様すぎて、ノワールではなくホラーの領域に入っているようにも思える。
ノワールのスタートは1941年の「マルタの鷹」といわれているが、この作品を観ると1940年のこの作品こそノワールのスタートと確信してしまう。
今回のノワールのDVD化の中では、ひときわ目立つ作品だと思う。